TRPG第一弾「死と埋設」 第二話中編 死んだはずのウェイター
神帰の月・王の日――(現暦換算:十二月十三日)
「さてと、どこからだったっけ?」
放課後の部室で、昨日中途半端に終わったゲームの続きをするべく、みんながいつものソファーに集まっていた。
テーブルトークというゲームを始めたのはいいが、毎回ソニアとリリスが喧嘩をしているような気がする。ゲームを紹介したリゲル自身も、「こいつらダメだ」という感じで、半分投げ出しかけている雰囲気すらある。
もっとも、昨日ゲームを中断してしまったのは、リゲルにも責任があるのだが。
果たしてゲームを終えることはできるのだろうか?
「えーと、それでは昼食ということで、お前らは村の食堂に集まっている――、というところから始めよう。正直俺も、前回どこで終わったかあまり覚えてないので、とりあえずこの場面から始めることにする」
「前回の終わりはふうせ――」
「――昼食シーンだな、わかった」
リリスがまた要らないことを言いかけたのを、ラムリーザは慌てて遮って話を進めた。
「店に入ると、ウェイトレスが『何にしますか?』と聞いてくる――が、まあ別に何でもいい。そこでだな――」
「あたしきんぴらきゅうりとミートパイ、豆乳もつけてね」
ソニアがすかさず注文を入れた。よく分からない組み合わせだ。
「あ、豆乳なんて飲むからバストが――」
「――ウェイトレスに、最近の事件について何か知っているか聞く!」
今度はユコが余計なことを言いかけたのを慌てて遮るラムリーザ。
「ウェイトレスは知らないと答え、ウェイターが注文の品を運んできた。ちなみに、ウェイターの名前はフレディだ。さらに、ユコは「知っている」前提で進めていたが、ユコの記憶にあるフレディと、今目の前にいるフレディの人相が一致した」
「ああ、この人が自称画家のフレディさんですのね」
「ちょっと待って、ちょっと待って、話が急すぎる、というか、フレディは焼死……じゃないな。焼かれて入院していたところを、ダガーで刺されて死んだのじゃなかったっけ?」
ラムリーザは、話を確認する。これではあまりにも話が急展開すぎる。
「あなたたちは、焼けただれた姿しか知らないでしょう? この人がフレディですの……死んだはずのね」
「うーん、生きてるじゃないか」
「えー? 死んだんでしょ?」
「そのウェイターは、他の客に呼ばれて立ち去っていった」
その後、少しの間だけ沈黙が訪れた。プレイヤーたちは皆、気味の悪さを覚えたのであった。
「死んだはずの人間が生きて動く……心当たりはありますか?」
沈黙を破ったのはロザリーンだ。
「ゾンビね」
そう答えたのはリリス。
「あれか……」
ラムリーザは、以前みんなで遊んだゲームで、ゾンビに襲われて全滅したことを思い出した。
「綺麗になっているのは村長の仕業ね。服装や持ち物に、変わったところはないよね?」
ロザリーンの質問にリゲルは「ごく普通のウェイターの格好だ」と答えた。
「あ、そうだ、店長に聞く。あのウェイターは、いつ雇った?」
ラムリーザは、もしこのフレディが事件の被害者と関係あるなら、最近雇われたことになるのではないかと考えて尋ねてみた。
「そうだな――店長の話では、今までのウェイターが昨晩大怪我をして来られなくなったので、今朝、村長のドップスに頼んで、代わりの人間を斡旋してもらった、ということにしておく」
「やはりあの気味の悪い村長――いや、葬儀屋が一枚噛んでいたか……」
最初に登場した葬儀屋兼村長のことを思い出して、一同は顔をしかめる。悪趣味丸出しのじじいだった。会った時は、死体に化粧を施していたところだった。
「風船――」
「――やはりあの気味の悪い葬儀屋が一枚噛んでいたか!」
リリスの発言を遮って、ラムリーザは声を張り上げた。
「ラムリーザ様、それさっき言いましたわ」
「えーと、村長だね、リゲル」
ラムリーザは、誤魔化しつつリゲルに話を進めることを促した。今日のリリスは、妙に「風船」発言にこだわっているようだ。どうせ言いたいことは「風船おっぱいお化け」だ。その単語を発した後の展開も読める。だから、あえて口を挟むのを邪魔している。
「ああ、村長だ。で、だ。そこにガードマンのシェリフがやってくる」
「あ、待ってください!」
ロザリーンが何かに気がついたのか、声を張り上げる。
「昨日――いや、物語の中では今朝ですけど、確か河岸に行く前に、シェリフさんはフレディさんの遺体を墓に埋葬したって言ってませんでしたか?」
「ほう、よく覚えているな。さすがだ」
リゲルはロザリーンを褒める。ソニアとの扱いの違いは明らかだ。特定の人物を贔屓にするのと八方美人、男女の関係においてどちらが良いのかという議論は今は置いておこう。
「それで、シェリフさんはフレディさんの顔を知っているのではないですか?」
「シェリフは、フレディを見たのは既に事件の後だったから顔は知らない、遺留品から名前が分かっただけ、と答えた」
「いやいや、あの村長さんが遺体を綺麗にするのでしょう? 埋葬したのを見ていたのなら顔は知っているはずです」
この場は、ロザリーンの追及を受けるリゲルという図式ができあがってしまっていた。矢継ぎ早に質問を繰り出し、ゲームマスターのリゲルを問い詰める。
ソニアはあの村長が関わっているのを知ってからは口を閉ざしてしまい、リリスも戦闘以外は苦手だ。ユコは、今回はサブマスター的立場にいるので、ゲームマスターのサポートに徹しているようだ。
「驚かないのですね。死体が歩いてるってね。綺麗な顔見ているのでしょう?」
「シェリフは、『画家フレディの遺体なら、いまは墓地の棺桶の中ですよ』と笑い飛ばしている」
ラムリーザはと言えば、ロザリーンとリゲルの間に口を挟めずにいた。ただ、リゲルがこんなに楽しそうに話をしているのを見るのは初めてのような気がしていた。ソニアとの二人の世界を大事にするラムリーザは、ここはリゲルとロザリーンの「二人の卓」だな、と思っていた。
「まさか、画家フレディが蘇って、ここでウェイターしているとでも言うのかな?」
リゲルは、にやりと笑みを浮かべてロザリーンを見つめている。
「おかしいですね。魔法を使える人間がいるんです。死体が動こうとおかしくありません」
「例えば僕、とか?」
ラムリーザは二人の間に入っていこうとしてみたが、ロザリーンに「あなたは関係ありません」ときっぱりと言われてしまった。一応ゲーム内ではソーサラーなのだが。
「それなら埋葬がきちんとされているかどうか確かめたらどうかしら?」
リリスは視線を空に向けたままつぶやいた。ソニアに睨みつけられたが、気がついていないようだ。
「そうですね、墓地へ行って確かめてみましょう。シェリフさんにも同行してもらいます」
「ネクロマンシーなら、墓地はヤバイけどね」
リリスは視線を空から戻すと、怪しげな微笑を浮かべた。
「さすがにそこは詳しいんだね、吸血――」
「――墓地だね、墓地に着いた。フレディの墓はどこかな?」
今度はソニアが要らないことを口走りそうになるので、ラムリーザはまた強引に話を進めることになってしまった。
「着くのが早いぞ……まあいいか。お前らは墓守に案内されて、墓の一つの前に到着した」
「あたし墓地なんか行きたくない。墓地裏の家なんか見たくない」
「遅い、もう来ているし、家は無い。えっと、掘り返すのかな?」
ラムリーザは、ロザリーンを振り返って尋ねた。この作業はどうも気が進まない。
「どうせ何もないのでしょう?」
答えたのはリリスだ。頬杖をついたまま「始めから直接あのじじいに会ったほうが早かったのよ」とつぶやいた。
「とりあえず中身を見る……、でもいいんだよね? いや、正直気味が悪いよ」
「念のため遺体を確認します。リゲルさん、中身はどうなってますか?」
「焼け焦げた遺体を見るのはやだ!」
ソニアの不満の叫びが部室に響く。
「どうせ何も出てこないわ。それに、遺体があったとしても、あのじじいが綺麗にしているんでしょ?」
うろたえるソニアを見て、リリスはくすっと笑った。
「いやいや待てよ、ゾンビが出てくるかもしれん。防御体勢を取っておこう、いや、棺桶から離れる」
「あたしも逃げる!」
ラムリーザは慎重だし、ソニアもそれに同調する。
「中には、片手で持つことができる程度の大きさの、布切れに包まれた何かが入っているだけだった」
だが、リゲルの答えはあっさりとしたものであり、単純なものでもあった。だが、遺体が消えているということは、間違いないようだ。
それを聞いてリリスは、「やはりね」と小さくつぶやいた。
「で、その何かは何ですの?」
「何だと思う?」
ユコの問いに、リゲルは怪しげな笑みを浮かべる。
「気味が悪いですわ。ラムリーザ様、布切れを開けてくださいな」
「ちょ、なんで僕が?!」
ゲームの中の話であり、ラムリーザが実際に開けるわけではないのだが、開けたくない、というよりゲームを先へと進めたくないという気持ちでいっぱいになる。
「不気味な展開だなと思っていましたが、ホラーゲームだったのね?」
ロザリーンも流石に顔をしかめて、少し非難するような口調で問う。
その一方でリゲルは、笑みを浮かべたままメンバーの反応を楽しんでいるようだ。
「私が開けるわ」
そう宣言したのはリリスだ。
「布を取ると――」
リゲルは、わざと「ため」を作った。
「取ると?」
「――中には人間の心臓が入っていた!!」
リゲルにしては珍しく、声高らかに宣言した。まさにこの場面を演出したいがために、ここまで話を持っていったかのように。
「…………」

再び沈黙が、部室を支配した。誰かが息を吸い、声にできずに飲み込んだ。沈黙というより、言葉のほうが先に息を止めた感じだった。
「ふえぇ……」
誰かのつぶやきだ。ソニアか?
「悪趣味ですわ……」
これはユコのつぶやき。
「心臓……だねぇ」
状況把握だけで精一杯なラムリーザ。
「遺体はどこに?」
何とか冷静を保っているロザリーン。
「まずいわ、心臓は操るための触媒……」
状況がわかっているのか、妙に納得しているようなリリス。
「さてどうする?」
唯一楽しそうにしているのは、リゲルだけだ。いや、リリスもこの状況を面白がっているようでもある。
「あのじじい、村長の屋敷へ行く」
「あ、その前にちょっと休憩――」
ラムリーザは、話を進める前に少し落ち着きたいと思った。さすがに展開が不気味すぎる。外の空気が吸いたかった。
「休憩か? それも良いが、昨日みたいに帰ってこないとかにはなるなよ」
これからがゲームのクライマックスなのか、リゲルは続けたい気満々だ。
「大丈夫、私が付いて行くわ」
ソファーから立ち上がろうとしたラムリーザに合わせて、リリスも立ち上がる。
「むっ、リリスと二人きりにさせるかっ」
続いてソニアも立ち上がる。無用な対抗心を燃やすかのように。
「しょうがない奴らだ」
リゲルは腕を組んで、ソファーに深く座り直し、軽くため息をついた。
いつもは賑やかな部室が、今日は不気味な雰囲気で彩られているのだった。