浮気騒動?! 証拠写真もある?! なんで?! ~後編~
陽翼の月・竜神の日――(現暦換算:九月八日)
この日、ラムリーザは厄介な事件に巻き込まれることになった。
どうやら浮気をしている証拠が出てきたというのだが、身に覚えがない。
ラムリーザとチロジャルは、お互いのことを知らないし、その写真に写っていることにも心当たりがないと、それぞれ言った。写真では、この二人が校舎裏のどこかでキスしているところが写っている。だが、そのようなことはしていないというのだ。
「それはどうだか。ラムのこと寝取ろうとする奴なんて、どこにでもいるからねー。リリスとかリリスとか」
「やめなさいソニア。僕の言ってることが信じられないのか?」
「チロジャル、そいつのほうがいいのだったら素直にそう言えよ」
「やめてよ、私が信じられないの?」
「だったらその写真は何だ?」「だったらその写真は何よ?」
ソニアとクロトムガの台詞が被った。ラムリーザとチロジャルが何を言おうと、証拠の写真があるのだからどうしようもない。
それぞれ人違いか、という話も上がったが、チロジャルにはその場所に心当たりがある。しかも、二人とも半分顔が映っている。
そもそもこの写真は、誰が撮ったのだ?
四人で話していても結論が出ないので、次は写真部に聞いてみることにした。校内で写真を撮る機会があるとすれば、写真部ぐらいだ。しかも、こういうスキャンダルを狙って撮るというのも、写真部の可能性が高い。
外部のカメラマンが来たとなると、それだけでイベントとなっているはずだ。それに先生が撮ったとしたら、この場合は撮るよりもすぐに注意しにくるはずだ。
そういうわけで、四人は写真部の部室を目指して行った。

「ドキッ、し、知らないアルよ」
写真部の生徒に問題の写真を見せた瞬間、彼はものすごくわかりやすい反応を示した。
「いつ、どこで、撮ったの?!」
「そ、その話、タブーね。知れたらこれアルよ」
ソニアが強く問い詰めても、彼は自分の首をちょんと切るような動作を示すだけで、どうも要領を得ない。
雰囲気からして、この人が絡んでいるのは間違いない。しかし彼は、真相を話すのを恐れているように見えた。
「何をしているのかしら?」
そこに、新たな人物が加わった。それは厳格で見た目からしてきつそうな感じの女生徒だ。
「うわっ、やべっ」とクロトムガは焦りを見せる。
「…………」とチロジャルは怯えたように黙り込んだ。
「また来た……」とソニアは慌てて服装をチェックした。
「あ、君は確かケルムさんだったかな」と平然としているのはラムリーザだけだ。
彼女は写真をさっと奪い取ると、厳しく言い放った。
「ラムリーザとチロジャルが校舎裏でキスしていたってことね、風紀監査委員として見逃せないわ」
「私やってないよ! ぐすん……」
とうとうチロジャルは泣き出してしまった。
「あ、ソニアたちの言ってた風紀監査委員って、ケルムさんのことだったのか」
ラムリーザは、そこで初めて気がついた。ラムリーザはケルムとは、春先のパーティーで紹介されて以来、校内で出会うことはなかった。
逆にソニアは、何度も何度も遭遇していた。その度に服装の乱れを指摘され、ラムリーザとの校内でのいちゃつきも注意されてきたのだ。
「この風紀監査委員がこの写真持ってきたのよ! ラム、これはどういうことなの?!」
ラムリーザは、だんだん面倒になってきた。
この写真の存在も、風紀監査委員の登場も、ソニアが信じてくれないことも。
「仕方ない。そこまで信じられないのなら、もう別れ――」
そこまで言いかけて、ラムリーザは思い出した。この先の言葉は二人の間では禁句にしていたことを……。
「――ないっ、と。この写真は何だ? 身に覚えがないからひょっとして偽造? ちょっと確認してくれないか?」
ラムリーザは、写真部員に、この写真について調べてもらうことにした。
ゲームかアニメかドラマか映画か、ミステリーもので偽造写真というものを聞いた記憶があった。
だがこの写真部員は、おどおどしているだけで答えようとしない。
だからラムリーザは質問を変えてみることにした。
「君、僕とケルムさんがキスしている写真を作ることはできるかい?」
「つ、作れるアルよ……」
「どうやって?」
「それはえーと……君かケルム様のどちらかが他の人とキスしている写真を撮って、あとは顔を差し替えたら完成アルよ……」
写真部員は「ケルム様」と、妙に風紀監査委員のケルムを意識しながら答えた。
しかしこれで、この写真が偽造かどうかはさておき、でっちあげ写真を作成できることはわかった。
ラムリーザは次にクロトムガに問う。
「クロ――なんだっけ? 君はこの娘と、この場所でキスしたことあるか?」
「んなこと風紀監査委員の前で言えるか! あと、クロトムガだ」
「ないとは言えないんだね、ふむ……」
ラムリーザは、この場所はクロトムガとチロジャル二人の秘密の場所か何かではないのかと察した。否定はできない、ということだからだ。
ということは、やっぱりこれは偽造写真だな。
「写真部員の君、名前はえーと……まあいいや。この娘をこんなに悲しませていいのか?」
この娘とはチロジャルのことだ。追い詰められてしまって、先ほど泣いてしまったところだった。
ソニアとクロトムガはどちらかと言えば怒っている感じなので、ラムリーザは写真部員にチロジャルが悲しんでいることを伝えて罪の意識を植え付けようとしてみたのだ。
「あわわ……」
写真部員はケルムの顔色を伺うような感じで狼狽えるばかりで話にならない。
「正直に言わないと、四人が迷惑することになるんだぞ?」
すでに迷惑は被っている。
「か、勘弁してくれアルよっ!」
写真部員はケルムと目が合った瞬間、大声を張り上げてこの場所から逃げ出してしまった。
あれは黒だな、とラムリーザとクロトムガは別々に、同じ結論へ辿り着いた。
ソニアはむすっとしたまま何も変わらず、チロジャルは泣きじゃくっているだけだ。
しかしなぜ、わざわざこんなものを作り上げたんだろう。
ラムリーザはもう一度写真を見ようと思った。しかしケルムは小さく舌打ちし、写真をビリビリに引き裂いてしまった。
「今回は写真部の嫌がらせによるでっちあげということで不問に処します。以後、紛らわしい行動は慎むように」
最後に厳しい口調で四人に言い聞かせてから、ケルムはその場から立ち去ってしまった。
ラムリーザは心外だった。慎むも何も、やっていない。写真は偽造されたものだし、今回校内でキスまでしていたのはクロトムガとチロジャルのほうだし。ラムリーザとソニアの二人も、学校の裏山の秘密スポットでしたことはあるが、今回は関係ない。
「ぐすっ、えぐっ……、私この人とやってない、信じてよぉ……」
「だな、今回ははめられかけたようなもんだな」
クロトムガはチロジャルのことを信じることにし、ラムリーザを睨みつけた。
いや、こっちに怒りを向けられても困る、とラムリーザは思ったが、クロトムガが先ほどラムリーザに握りつぶされかけた右手をさすっているのに気がついた。そのことで怒っているのだろうか。そもそも先に胸ぐらをつかんできたのはそっちだろうに。
ラムリーザはそう思いながら、二人が立ち去っていくのを眺めていた。
さて、今回の件がでっちあげだということはわかったが、ソニアはラムリーザに非がないことを認めるだろうか?
ラムリーザは、ソニアのほうへ視線を戻した。ソニアは目を逸らしていて何か考えているようだ。
しばらくして、何か思いついた! という顔で、ソニアはラムリーザの目を見て言った。
「さっきの写真の場所につれていって、キスしてくれたら信じる。というか、許してあげる」
「キスって、風紀監査委員に会った後なのによくそんなこと言えるな……」
「その場所でラムの唇に上書きするの!」
さしずめ、キスの上書き更新か。
しかしラムリーザは困った。その場所を知らないのだ。知らない場所に連れていくことはできない。
だからラムリーザは、これはしばらく放置するしかないと考え、諦めたように言い放った。
「すまん、その場所は知らないから連れていけない。もういいや、諦めてくれ」
ラムリーザはソニアに背を向けて教室のほうへ向かって歩き始めた。ちょうどその時に、授業の始まるチャイムが鳴り響いた。
すぐに後ろからバタバタと走ってくる足音が聞こえ、次の瞬間ソニアがラムリーザに後ろから飛びついてきて抱き着いた。
「な、なんぞ?!」
「連れて行ってキスしたら許してあげると言ってるのに、知らないから連れていけない。つまりそこに行ったことないってことだよね」
「お、おう……」
「じゃあやっぱり偽造なんだね」
ラムリーザが振り向くと、ソニアはそれに合わせて唇を重ねた。廊下でキスだ。上書きしたい気も分からないではないが……だめじゃないか! よく考えたら、ラムリーザはチロジャルとキスしていないのだから上書きにならない。つまり、ソニアがやりたかっただけだ。
授業が始まる前に、ラムリーザは少し気になったことをソニアに聞いてみた。
「それで、さっきの写真はどこで手に入れたんだ?」
「風紀監査委員が持ってきた」
ソニアは練り消しをこねながら答えた。まだ練り消しを使っている。
「そうか……」
ラムリーザは、今日の出来事で何かひっかかる点があることを感じていた。
なぜラムリーザと知らない娘のキスシーンを、ソニアに見せる必要があるのか? 相手のチロジャルか、ラムリーザ本人に注意すればいい話じゃないか?
写真部員のでっちあげにケルムが利用されたとしても、なぜ写真部員がラムリーザを陥れようとするのかわからなかった。
ひょっとしたら、写真部員がチロジャルに気があって、チロジャルの彼氏との間を壊すためにラムリーザ自身が利用された可能性もある。だが、写真部員の思惑から外れて、ケルムは普段から目をつけているソニアのほうに注意しに行ってしまったと。それで写真部員は当てが外れて、動揺していたとも考えられた。
それか、写真部員の気があるのはソニアだということも考えられる。
また、風紀監査委員に恨みがあって、誤認をさせて失墜させるとかもありうる。
写真部員がでっちあげ写真を作り上げた理由は、いろいろと思いついた。
しかし、すべて憶測でしかない。
ラムリーザは、授業が始まったので、考えることはいったんやめて、授業に集中した。
ただ一つ、ソニアの練り消しは取り上げないとダメだなとか思っていた。練り消しで遊んでばかりで、ちっとも授業を聞いていないようだった。
まあよい。
それよりもラムリーザはあることを思い出した。交換日記をずっと持ったままでいた。
「えーと、交換日記だけど、誰に回せばいいのかな?」
「『ラムリーズ』のサブリーダーである私が二番手で行くわ」
サブリーダーって、決めていたっけ?
ラムリーザが戸惑っている間に、リリスはひょいと交換日記を奪い取った。こうして交換日記は、ラムリーザの手から『自称サブリーダー』のリリスの手に渡っていった。
こうして、偽造写真をめぐってのトラブルは、ひとまず無事に平穏へと幕を下ろすことができた。
ソニアに対する誤解は解けた。証拠だと思っていた紙切れは、ただの作り物だった。そしてソニアが納得してくれた。それだけで、ラムリーザは胸の奥の重石が外れた気がする。
けれど――写真は破かれて、動機も消えたわけじゃない。誰かが、わざわざ自分の顔を借りて、別の誰かの関係を掻き回した。
少し気味が悪い。でも、分からないことはひとまず棚に上げていい。