TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 第二話 リップル・ドール
白霜の月・月影の日――(現暦換算:二月二十日)
ユコがゲームマスターを務めているテーブルトークゲームは続いている。
前回の冒険で一緒だったカノコが行方不明になり、妹のマコの依頼で調査することになった。カノコの部屋には剃刀レターが残されていて、その刃には何らかの毒が塗られていた。
そこで、毒に詳しいヒーラーの薬屋であるユウナに会って、話を聞くことになった。
「机の上の怪しい手紙と剃刀を持っていって調べてもらおう」
「とりあえずリリスは、なんか上着を着て翼を隠してね。ただでさえ怪しい吸血鬼なのに、そんなのつけていたら本物の吸血鬼になっちゃうよ」
ソニアの言葉は、半分煽りで半分事実だ。リリスは、剃刀に塗られていた毒の影響で、なぜか蝙蝠の翼が生えてきたのだ。
「ソニアを踏んづけます。あれ? ちっちゃくなっていたからわかんなかった、ごめんね、くすっ」
リリスの煽りも同様、ソニアも剃刀の毒で、なぜか身体の大きさが半分以下に縮んでしまっているのだ。
「そうこうしている間に、目的の薬屋に到着しましたの。んで、カウンターには白エルフの少女が店番をしています」
「ええと、この人がユウナさんかな?」
「白エルフの少女が、間延びした声で『私がユウナです、何かお使いですか?』と答えました」
「あらあらまあまあは、そいつが設定を引き継いだんだな?」
リゲルのツッコミにユコは、「そんな設定は知りません」と答えた。
「背が伸びる薬ください」
真剣な表情でソニアが頼み込む。
「ユウナは、背を伸ばしたいんですかぁ? だったらよく食べてよく寝ることです、と答えました」
「そうじゃなくて!」
「いや、毒の影響だから解毒してもらえばいいんだよ。というわけで、この剃刀を調べて下さいと言って剃刀を差し出します」
ラムリーザは、隣でふくれているソニアをなだめながら提案した。
「念のために聞いておきましょう、あなたはカノコさんを知っていますか?」
ロザリーンの問いにユコは、「カノコとは仲良しだけど、最近店に来てくれない」と答えた。
「ちなみにユウナってキャラは?」
ラムリーザは、ユコではなくあえてリゲルに聞いてみた。リゲルの考察を楽しみにしている自分がいる、と感じながら。
「双子の姉で、策士のほうだな」
「外野うるさいですの! ユウナは、『立ち話もなんですから、お茶でも飲んでいってくださいです』と言いながら居間に案内していますわ!」
ユコが反応したということは、リゲルの考察には何かがあるに違いない。
「居間には入るけど、お茶には手を出さないでおこうか」
ラムリーザは慎重だが、ソニアは「お茶もお菓子も食べる~」と妙に嬉しそうだ。
「あ、ソニアは出されたお茶を飲みましたのね、ダイスを一個振ってくださいな」
ソニアは、ユコに言われたとおり、ダイスを転がす。
「そういえば、剃刀手紙の差出人は書いてあるんかな?」
「差出人は書いていなくて、おまけに中身は白紙。典型的な嫌がらせみたいですわ。あと、その目だとソニアの身体は元に戻りました。あとユウナは、リリスの翼に興味を示しているみたいですよ」
リリスは、「カノコの部屋で手がかりを探していたらこうなったのよ」と答えた。
「白紙かぁ」
ラムリーザがそう言うと、ロザリーンは「火を近づけたら文字が出るかもしれませんね」と言った。それは、あぶり出しだ。
「ユウナは『毒ですかぁ。う~ん、なんだか「リップル・ドール」に似てますね』と答えた。あ、ちなみに先ほどのお茶には、解毒作用があるんですよ、と言っています。どうやら急に大きくなったソニアを見てびっくりしたようです」
「それじゃあリリスも飲んだらいいね」
「治るのね、空が飛べるならこのままでもいいけど」
「やっぱり吸血鬼だ」
リリスは、ソニアに煽られてむっとして、一緒にお茶を飲むことにしたようだ。
「はい、飲んだらダイスを転がして。毒だけど体内に入ったのは微量みたいだから、このお茶で十分。解毒剤までは要らないようですの」
リリスの出目でも、無事に解毒作用が出たようで、リリスの姿も元に戻った。
「さて、二人とも回復したところで本題に。そのリップル・ドールとやらの毒は、ここで売っているのかな?」
ラムリーザは、リリスを煽ろうとするソニアを抱き寄せながら話を進めた。

「ユウナは、リップル・ドールは危ない毒なので売ったりしません、と答えましたわ。あれは、戦士系の人を化け物に変えたり、魔導師系の人を人形に変えたりする毒なのです。それだけ言うと、ユウナは剃刀を調べ始めました」
「そっか、だからリリスは化け物の吸血鬼になったんだね!」
「あなたは毒がなくても化け物の風船おっぱいお化けでしょう?」
「こほん、それで前衛の二人は小人になったり吸血――蝙蝠みたいになったんだね。ちなみに僕が引っかかっていたら人形になっていたのか」
「ラム人形欲しい!」
ソニアがラムリーザに抱きつきながら言ってくるので、ラムリーザは「君にはココちゃんがいるだろ」と答えた。するとソニアは、「ココちゃんは人形じゃなくてクッション!」と言い返すが、とりあえずどうでもいい。クッションもぬいぐるみも人形だと思う。
「そんな危険な毒が、なぜカノコさんの部屋から出てきたのでしょう……」
「さて、剃刀を調べ終わったユウナは、驚愕の事実をみんなに告げますわ」
「ユウナと妹のアサナとの間には、死んだ姉妹のマヒルがいたんだな?」
リゲルに茶々を入れられて、ユコは憤慨する。
「違いますの! この剃刀には、リップル・ドールが塗られてたのです!」
少しの間だけ、部室内に沈黙が流れた。
「へっぷし! へっぷし! ――ふえっぷし!」
その沈黙は、ソニアのくしゃみ三連発で破られた。三発目には、ご丁寧にもタメが入っていた。
正面にいたリリスは、「きたないわね」と言いながら顔をぬぐう。どうやらしぶきが顔にかかったようだ。
「えっと、カノコって確かソーサラーだったよな?」
ラムリーザは、リゲルを伺いながら言った。
「チート級ソーサラーな」
「それじゃあ、カノコさんは今頃は人形になっているのですか?」
「次は人形屋さんかな?」
カノコの話をしている三人とは別に、珍しくリリスが口を挟んできた。
「じゃあユウナさん、そろそろ罪を認めたらどうかしら?」
リリスは、毒を持っているユウナが怪しいと睨んだようだ。「あなたが犯人ですね」と、ユコを見ながら微笑を浮かべている。
「ち、違うですの、ユウナは剃刀に毒塗るのは嫌いと言ってます!」
「動揺してる時点で怪しいわ」
「とにかく違います! お人形屋さんなら、リンナという人がアンティークショップやってるみたいですの!」
ユコは、リリスの指摘を逃れてなんとか話を進めようとしている。
「カノコ人形かぁ、人形にして売られてそうだな」
ラムリーザのつぶやきにソニアは、「今欲しいと思ったでしょ」と笑いかけてくる。
「思っていないいない、ココちゃんで十分。あ、ココちゃんはクッションね」
とりあえず否定と同時に、ソニアのツッコミを事前に回避しておく。
「それで、他にこの毒を持ってる人、持ってそうな人はいませんか?」
ロザリーンの問いにユコは、「この国でこの毒を持っているのはユウナだけと答えた。何でも皇帝陛下に特別に許してもらっているのだそうです」と答えた。
「だったらなおさら犯人はユウナでしょう?」
すぐにリリスが突っ込んでくるが、ユコは「違います!」と力強く答えた。
「リンナって誰だろう?」
ラムリーザは、またしてもリゲルに聞く。
「リンナか、まぁ簡単に言えば長距離ランナーだな、全国レベルの。ただし本番には弱い、すぐにお腹を壊す」
なんだかよくわからないが、名前を言うだけでいろいろと設定を語ってくれるリゲルが、ラムリーザにはおもしろかった。
「違います! リンナもユウナの友達だそうですの!」
「了解了解、そのリンナも怪しいけど、仲間だったら毒を使うことはないだろう。それで最近、そのリンナって娘とカノコは喧嘩していないかい?」
ラムリーザは、そろそろユコが責めるような目つきになってきたので、すぐに話を本筋に戻すことにした。
ユコは口を尖らせて軽くラムリーザを睨みつけたが、すぐに話を進め始めた。
「リンナはいつも調停役で、カノコと喧嘩してたのはテュリウスとエレンウェンですかねぇ」
「そのテュリウスとエレン……、いや、なんでもない」
ラムリーザは、ユコが睨みつけてくるので、これ以上登場人物のネーミングについてリゲルに聞いて探りを入れることはやめにした。
「なぜ喧嘩をしていたのですか?」
ロザリーンの問いにユコは、「エレンウェンがカノコにいつも冷たく当たってたですぅ~。ユウナには難しくてわからないようですの」とキャラクターになりきって答えた。
「ん~、怪しい奴がいきなり三人になってしまった。そんで、テュリウスとエレンウェンって誰?」
ラムリーザは今度は、リゲルではなくユコに聞いた。これなら文句は言われないだろう。
「テュリウスはエレンウェンの味方ばっかりしています。あ、テュリウスはユウナたちのチームリーダーでただ一人の男性ですの」
「それで、二人は何をやっているのかな?」
「エレンウェンもユウナのお友達だけど、ちょっとクールな女性です。二人は魔術師ギルドの講師をやってますわ」
「ふ~ん、それじゃあリンナから行く? テュリウスとエレンウェンから行く?」
ラムリーザは、メンバーを見渡して聞いてみた。その時、なぜかリリスと目が合ってしまう。リリスは微笑を浮かべてぽつりと言った。
「テュリウスはエレンウェンに惚れているのね」
それを聞いてソニアは「逆じゃないかな?」と反論する。リリスの「なぜかしら?」の問いには、「三角関係になるじゃん」と答えた。
「エレンウェンからテュリウス、そしてテュリウスからカノコなら納得いく、うんうん」
ソニアは、情報を曲げてまで三角関係を作って納得している。
「それよりも、テュリウスとエレンウェンの間にカノコが割って入ってきて、それでちょっかいを出すカノコにエレンウェンが攻撃とも考えられるわ」
「リーダーなのに贔屓ってダメですわねぇ」
ユコも混ざってきて、リリスと一緒にラムリーザの顔を意味ありげな視線で見つめてくる。
「待って、ちょっと待って」
ラムリーザは慌てて弁明する。
「僕はリーダーになる前からソニアを――って、別にソニアを特別に贔屓しているつもりはないよ」
「そうかしら?」
リリスは怪しげな笑みを浮かべて、ゆっくりとラムリーザに顔を近づけた。
「ラムリーザ、あなたはソニアと毎日同じ部屋で寝起きしてるんですってね?」
「そっ、それが何……、ですか?」
ラムリーザは、引きつった笑みを浮かべてリリスに問いただすが、なぜか丁寧語で聞いてしまった。
「なぜ私と寝てくれないのかしら」
それを聞いて、ラムリーザは「ぶっ」と噴き出してしまう。思わずのけぞってしまったラムリーザの代わりに反撃したのがソニアだ。
「何よ! まだ寝取る気満々だったのね?! リリスはハマクリボウと付き合って寝たらいいって、何度も言ってるじゃないの!」
「まぁラムリーザはカノコに惚れているけどね」
「惚れてない惚れてない」
ラムリーザは必死に反論しながら、なぜこんな話になってしまっているのだろうと、頭を抱えたくなった。
「ラムリーザ様、お別れになる前に、最後に一度だけでいいから私と寝てくださいですの」
「…………」
もうラムリーザには、何も反論できなかった。とりあえず、この場から逃げ出してしまいたい、それだけを考えていた。
「寝取るな! 役立たずの魔女と呪いの人形! ユコもカノコと一緒に人形になってしまえばいいんだ! そうなったらあたしはユコ人形をトイレに流す!」
ゲームマスターがリリスに加担してラムリーザを誘惑している。それに反応して、ソニアは完全に頭に血が上ってしまい、よくわからないことを叫んでいる。今日はもう、これ以上ゲームにはならないだろう。
場がおかしな空気になりかけた時、ちょうど良いタイミングで下校の時間を告げる放送が流れ始めた。
「あっ、下校の時間だ。今日は楽しかったよ、続きはまずリンナの店から当たろうってことで、また今度やろう。そういうわけで、さようなら!」
ラムリーザは、早口で言い捨てて、急いで鞄を手にとって部室から逃げ出すように駆け出して行った。
「あ、ラム待ってよ!」
ソニアも慌てて立ち上がり追いかけるが、足元を這っているコードに足を取られて、派手に転倒した。何が原因かはあえて追及しないが、やはり足元が見えていないようだ。