TRPG第一弾「死と埋設」 第一話前編 葬儀屋兼村長
静寂の月・賢者の日――(現暦換算:十二月五日)
放課後、部室にて。
前回のキャラクター作成に続いて、今日は実際にテーブルトークゲームをプレイすることになった。
ゲームマスターはリゲル。とりあえず急遽話を仕上げたということで、内容は粗削りだというが、テストプレイも兼ねているのでそれでよいことにした。
今日も部室中央のソファーに集まって輪になっている。
「さあ、百エルド賭けなさい。何が出るかな? 入ります!」
リリスは今日のために持ち込んだダイスを使って、何やら勝手に遊びだした。それを一つ手のひらに乗せると、そのままテーブルにかぶせるように置いてダイスを隠す。
ソニアは「三」と言って銀貨を一枚置く。ユコは「六」と言って同じように銀貨を置いた。ロザリーンは参加せずに、不思議そうに三人を眺めていた。
二人が銀貨を置いたところで、リリスはゆっくりと手を上げた。手の中にあったダイスは、一の目を出して止まっていた。
「はい外れ、銀貨は没収ね」
リリスは微笑を浮かべ、二人の銀貨を回収した。
「えっと、君たちは何をやっているのかな?」
リゲルは腕を組んだまま静観しているので、ラムリーザは仕方なくリリスに尋ねた。
「チョボイチよ。ダイスの目を当てられたら、掛け金の四倍のお金をもらえるの」
「はぁ? チョボイチ?」
「ラムリーザも賭けていいのよ」
「それじゃあ金貨一枚――じゃなくて、ゲームは? テーブルポークだっけ?」
「テーブルトークゲームですの」
「あーもう、それでいいから、そっちはやらないのか?」
リリスはクスッと笑って答えた。
「いいわ、二百エルド稼いだし」
「ちょっと待ってよ! あたし取られただけじゃない!」
「あーうるさいっ。リゲル、早速ゲーム始めてくれ」
「チョボイチやりたいのなら、俺は別にかまわんぞ」
リゲルは、腕組みをといてギターを手に取る。
ラムリーザはリリスからダイスを取り上げ、騒ぐソニアをなだめて、再びリゲルにゲームをやってもらうよう頼み込んだ。
リゲルは「仕方ないな」という顔でギターを床に置き、全員にキャラクターシートを配り始めた。先日作成したキャラクターは、一枚の紙に設定が記録されていて、リゲルが管理していた。
「では始めるぞ。えーと、お前らは全員死んで、このゲームの世界に転生……、いや転移したということにしよう。いや、転移だとダメか、転生な」
「ずいぶんと乱暴な展開だな」
「仕方ないだろ。キャラクター作るときにユコがお前らをそのまま作ると言って、その通りに作ったんだから」
「せめてワープとかにしないか?」
「それだとお前、魔法使いになれないだろ?」
ゲームの導入からこの調子で、なかなか始まらない。それにソニアやリリスが騒ぐのではなく、ラムリーザとリゲルが真顔で討論している。
「ラムリーザ様、これはそんなゲームですの」
ラムリーザはユコにそういうゲームと言われて、これ以上突っ込むのはやめようと考えた。
「よし。それじゃあ、俺の運転するバンにお前ら全員乗ってたところ、運転を誤って谷底に転落してしまった。バンは爆発し、お前らは全滅してしまった、ということにする」
「ちょっと生々しいぞ、それは……」
「ラムリーザ様!」
「ぬ、すまん……」
こうして、物語が始まった。
ラムリーザ、ソニア、リリス、ロザリーンの四人は、十六歳になったとき、駆け出しの冒険者になっていた。すっかり顔馴染みになっていた四人は、今日も冒険者ギルドで次の仕事を探していた。
ソニアとリリスは、勇敢なのか無謀なのか分からない戦士であり、ロザリーンは竜神テフラウィリスに仕える竜巫女。そしてラムリーザは、冒険に憧れていた魔導師学校の生徒だった。
「という設定にしておく。文句はないな?」
現実世界での全滅から、異世界転生後の流れを一通り語ってから、リゲルは一同を見回した。
「私はいない扱いなんですの?」
「お前は今後ゲームマスターと掛け持ちになるから、サブキャラ的扱いとする。それでいいだろ?」
「冒険者ギルドって何ですか?」
「細かいことは気にするな、依頼所みたいなものだ」
いくつか指摘が入ったが、三人が頷く中、リリスは一つ注文をつけてくる。
「ラムリーザと私が恋人同士という設定をつけておいてね」
「なんでそうなるのよ!」
当然ソニアが噛み付いてくる。
「ラブコメは、やらん。キャラ同士の細かい関係設定は、お前らで勝手に作っておけ」
リゲルは短く答えて、話を続けた。
そこに、ユコがやってくる。
この四人組には、いつもユコが仕事を持ち込んでくることになっていた。
ユコは一人の男性と一緒に酒場に入ってきて、真っ直ぐに四人の集まっているテーブルに向かった。
その男性は、田舎の村フィオリーナのガードマンで、村で起きた事件についてひどく困っているので助けてほしいと言った。
彼の名前はシェリフ。彼は、四人に「フレディ・ルモイン」という男を知っている者がいるか尋ねた。
「あたし知らない」
「うん、聞いたことないね」
「まぁ、ユコは知っているということで、話を進めよう」
「なんだかサブマスターみたいですわね。いいですわ、ええと、彼は自称画家でしたっけ、知っていますわ」
「ん、それでいい。シェリフは、そのフレディという男が、大変なことになってしまったので、村に来てもらいたいと言ってくる」
リゲルの語りで物語は進んでいくが、ラムリーザはちょっと突っ込んでみた。
「自称画家って何?」
「適当に思いついただけですの」
「そ、そうか……。で、大変なことって?」
「まあ突っ込むな。それで、そのフレディとやらが、何者かに襲われて重症なのだ、と言っている」
「なるほどね」
ラムリーザは納得し、ソニアはなぜかわくわくしたように言った。
「魔物か? 猛獣か?」
「いや、魔物って……」
「異世界だからな、ありえることだ」
そう聞いてラムリーザは、ゲームだということを思い出した。少し現実的に考えすぎたようだ。
話は続く。
シェリフは「とりあえず村まで来ていただけないでしょうか?」と頼んだ。
大怪我をしたということなら、プリーストのロザリーンが役に立つだろう。
そういうことで、ラムリーザたち四人は、ユコ、シェリフと共に、田舎の村フィオリーナに向かっていった。
村の様子は、一見何も問題は起きていないように見える。ひっそりとした感じで、村人も何も起きていないかのように普通に生活している。
まずは、村長に挨拶しておくことにして、四人は村長の屋敷に向かった。
「シェリフは、村長に会っておきましょうと言う。彼の話では、村長は葬儀屋も兼ねているそうだ」
「不思議な村だな……」
「嫌な兼業ですね……」
ラムリーザとロザリーンが、それぞれ感想を述べる。
「そのままシェリフに案内されて、村長のいる部屋へ通される」
「やぁ、村長さんおはこんばんちわ!」
ソニアが無意味に明るく挨拶する。
「ちなみに、部屋の中には一人の初老の男と、横たわっている女の死体がある」
「……リゲル悪趣味! あたしその部屋に入らない!」
明るく挨拶したかと思えば、すぐに怒った顔でリゲルを糾弾する。ころころ忙しい娘だ。
「えーと、死体? 葬儀中?」
「ですよね……、村長兼葬儀屋ですし……」
「シェリフは、ドップス? と呼びかけるが、村長は作業に夢中でこちらに気がつかない」
「ソニアが部屋に入らず騒いでいる隙に、ラムリーザの傍に寄っていくことにするわ」
「ラブコメは知らんから、そういう行動は好きなだけ勝手にやってくれ」
「待ってよ! ラムに近寄るな根暗吸血鬼!」
「死体があるから部屋に入れない小心者、くすっ」
「死体は怖くないけど、村長が気味悪い!」
「黙れ、話を続けるぞ」
早速口喧嘩を始めようとしたソニアとリリスを制して、リゲルは話を続けた。
シェリフに大声で呼ばれて、ようやく村長のドップスはこちらに気がついて振り返る。
「ああ、失礼。わしが村長のドップスだ」
ドップスと名乗った村長は、さらに語り始めた。
「コリンズ夫人が意外に厄介だったのだ……。かわいそうに……、格闘中に死んだような顔だった。厚化粧のほうが売春婦の葬式にはよろこばれる」
どうやら、ドップスは死に化粧をしていたようだ。話はさらに続く。
「まるで子供の工作みたいなものさ。失くなっていた目玉はおが屑で作って入れた。義歯はアルミの箱を曲げて作った。頭蓋骨の正面は後部の骨でおぎなった。片手の指がなくなっていたので、羊皮紙で包んで別の手を重ねた」
誰も頼んでいないのに、ドップスは長々と語り、最後には両腕を広げて自画自賛するような仕草を見せた。
「これを見ろ、わしの作った作品を! これは芸術だ。わしは芸術家だ!」

ゲームマスターリゲルの台詞に、部室内はシンとしてしまった。
「ん? どうした?」
固まってしまった一同に気がついて、リゲルは話を止めて尋ねた。
「いや――」
ラムリーザは、遠慮がちに口を開く。
「――すごい設定だな。専門家はすごいというか、なんというか……」
「嫌! この村長嫌!」
「悪趣味ね……」
ソニアは不満そうに叫び、リリスも顔をしかめてつぶやいた。
「格闘中に死んで、身体が欠損しているということね」
一人、ロザリーンだけが落ち着いて対応する。ゲームだと割り切っているなら、この反応が正しい。
「とりあえず、悪趣味な演説は置いておいて、用件を聞きたいけど、いいかな?」
「待って、遺体をチェックします。欠損の仕方に不自然な点はありませんか?」
ロザリーンの宣言に、リゲルは首を横に振って答えた。
「村長は、『こらっ、そこ。わしの芸術にさわるでない』と言って、チェックを阻んできた」
「いやいやいや、芸術ってあのね……」
ラムリーザは再びツッコミを入れるが、リゲルは知らん振りだ。
「いやまだチェックする前なのですけどね」
「さて、ガードマンのシェリフは、『村長に挨拶も終わったことですし、早速病院に向かいましょう』って言っているぞ」
リゲルは話を進めようとするが、ラムリーザは遺体が気になって聞いてみることにした。
「それよりも、そこの夫人はどうして死んだんだ?」
「村長は、『わしは葬儀屋じゃ、死因までは知らんぞ』と答える」
「いや、指とか目とかなくなっているんだろ? それなら普通に死んだわけじゃないと思うけど」
「そうね、フレディと同じ者に襲われたのかもしれないですわ」
「というより、どこで死んでたのかな? 死因だったら、過度のダメージによるショック死か失血死だと思うけど」
「やっぱり死体を調べてみる必要がありそうですね」
「村長は調べさせないようにしている」
「いやいやいや……」
リゲルはなぜか死体を調べさせないので、話が進まない。
その代わり、ガードマンのシェリフが「病院から連絡があって、昏睡状態に陥っていたフレディの意識が戻った」と言った。
「殺人事件なのだから、死体の確認ぐらいさせてくれないと困るけどなぁ」
「そうね、遺体確認を不許可にしていたら、村長にも嫌疑がかかりますね」
ラムリーザとロザリーンの二人がしつこく食い下がると、リゲルもようやく死体の確認をすることを許可してくれた。
「よし、それならセージ技能を基準に、知力ロールで判定してみろ」
「判定?」
「ダイスを二つ振るんだ」
「それじゃあ私が調べます」
ロザリーンはそう言うと、ダイスを二つ手にとって転がした。その目は三と六を示している。
「死んでいるのが不思議だ。外傷も、争った痕跡も残っていない、ってところだな」
「あー、そういえば死体の傷は修復したんだったな……」
「そういうことだな」
ラムリーザのつぶやきに、リゲルはにやりと笑う。
「えーと、この人どこで倒れていたか村長は覚えていますの?」
「村長ではなく、シェリフが『この人は、村の通りで何者かに襲われていました。私が駆けつけたときにはすでに……』と言う」
ユコとリゲルの会話を聞いたラムリーザは、ここは場所確認だけしてさっさと病院に行こうかと考えた。フレディという生き証人がいるのだから、村長よりフレディに聞いたほうが話は早い。
リゲルは、フレディが倒れていたのは「村の近くの川岸」だと言った。
「良いのかしら、連続殺人事件かもしれないけど……」
ロザリーンは、まだ何か腑に落ちないようだったが、村長にこれ以上話を聞いても無駄だと感じたのは同じだった。そこでラムリーザについて、病院へと向かうことにしたようだ。
そこまでプレイしたところで、ラムリーザは、ソニアとリリスが先ほどから全然話をしないことに気がついて尋ねてみた。
「ところで、ソニアとリリスは静かになってるけど、どうしたん?」
「私はファイター、戦闘になったら呼んで頂戴」
「あたしもバトルやりたい。推理はおもしろくなーい」
「そ、そうか……」
二人にとっては、推理より「殴れる相手」のほうが分かりやすいのだろう。
こんな感じに、初めてのテーブルトークゲームは進んでいった。
机の上の紙とダイス、そしてリゲルの淡々とした語り。
ラムリーザは、思っていたより、頭の中に景色が立ち上がってくると感じていた。