キャラクター作成 ~前編~ 自分たちを数値化せよ

 
 帝国暦九十二年 静寂の月・鍛冶師の日(現代暦:十二月上旬)
 
 
 放課後、部室にいつものメンバーが集まる。

 部室中央のテーブルを挟むように、二人がけのソファーが並んでいる。そこには、ソニアとロザリーン、リリスとユコが向かい合って座り、ラムリーザとリゲルは適当に椅子を持ってきて、囲むように座る。

 ユコとリゲルの提案で、今日から「テーブルトークゲーム」というもので遊んでみようという話になった。

 雑談部改め、テーブルトークゲーム部になりつつある。しかし、文化祭に向けての練習で演奏できる曲はかなり増えたので、少しはのんびりしてもいいか、という気にもなっていた。相変わらずオリジナル曲は作れていないのだが……。

 まあ、長い学校生活を、演奏練習だけで終わらせるのはもったいない。いろいろと楽しそうなものを、体験してみようではないか。

 

 テーブルトークゲーム――以後TRPGと略する――は、この時点ではユコとリゲルしか知らなかった。そしてこの二人も、人数の問題で、これまで実際にプレイしたことはなかった。

 リゲルは、テーブルの上に大きなルールブックをどんと置き、詳しくない面々へ説明を始めた。

「これが有名どころのTRPG、『ソード・アンド・マジック』だ。剣で戦ったり、魔法が出てくるぞ。簡単に言えばまぁ、お前らがよくやってるテレビゲームのRPGの世界を、自分たちで作り上げていくってことだな」

「ふーん、このルールブック、普通に本屋とかに売っているのかな?」

「これは有名だから、だいたいの店には置いているだろう。まあ、ゲームマスターはルールを熟知していなければならんが、プレイヤーは少し分かっていればいい。細かいところは、その都度教えてやる」

「そっか。じゃあ、次の休みに本屋にでも行くかな」

「あ、私も行くわ。ラムリーザ、明後日一緒に出かけましょうよ」

 どさくさに紛れて、リリスはラムリーザをデートに誘う。だが、すぐにソニアに噛みつかれた。

「魔女は一人で迷宮の奥深くにこもってろ、ラムと本屋に行くのはあたし!」

「ああもういいから騒ぐな、みんなで出かけよう」

 またソニアとリリスの喧嘩が始まりかけたので、ラムリーザはさっさと予定をまとめ、話を元に戻した。

「それで、このゲームはどんなことをやるんだい?」

 ラムリーザは、TRPGに詳しいリゲルとユコを交互に見ながら尋ねた。

「それでは私が話を進めますわ」

 ユコは説明役を買って出て、リゲルも一歩引いてユコに任せることにしたようだ。ユコは早速ルールブックを開き、説明を始める。

「ええと、皆さんはまず自分のキャラを作ってもらいますわ」

「キャラ作りね。ラムは優しい人、リゲルは冷たい人、リリスは嫌味な人、こんな感じ?」

 ソニアの意見は、ある意味では間違っていないが、リリスを攻撃していることに変わりはない。そういうわけで、またしても無用の争いが勃発しかける。

「ソニアは、五十点未満の馬鹿女とかね」

「なっ、リリスは根暗吸血鬼!」

「風船おっぱいお化け」

「はい、そこまで! くだらない言い争いは慎もう」

 ラムリーザは二人の間に入って、無意味な口喧嘩を中断させた。まったく、めんどくさい。

「こほん、それでは皆さんにゲームで使うキャラを作ってもらいますわ」

 そう言ってユコは、キャラメイクのページを開き、みんなに見せた。

「ふーん、ダイスを使ってパラメーターを決めるんだね」

「ダイス持ってないよ」

 ソニアがそう言うと、リゲルは自分の携帯型情報端末キュリオをテーブルの上に置いた。画面には、先日ラムリーザに見せた「ダイスを振るアプリ」が表示されている。

「じゃああたしからキャラ作るー」

 ソニアはリゲルのキュリオに手を伸ばそうとしたが、その手をユコに掴まれる。

「ダイスは……今日は使いませんの!」

「えっ?」

 ユコの言葉に、リゲルは怪訝な視線を向け、他の者は首をかしげた。

「自分自身を客観的に見て数値化してもらいます。キャラクターはあなたたち自身ということにしますわ」

「いきなりハウスルールか……」

 リゲルは小さくつぶやいたが、他の者は、それは面白そうだと乗り気になった。

「へー、あたしたちがこのゲームの世界に入り込むわけね。異世界転生みたい」

「ソニアは、風船おっぱいお化けに転生ね」

「むっ、それならリリスは吸血鬼に転生!」

「だから、いちいち言葉の槍を振り回さないの」

 ラムリーザは再び二人を抑えながらユコに尋ねた。

「それじゃあ、職業はみんな学生になるのかな?」

「いえ、そこはこのゲームの職業を自由に選んでもいいですわ。職業選択はダイスで決めず、好きに決めてかまいませんし」

 そこでラムリーザは、ルールブックの職業欄を一通り眺めてから、自分の職業を決めた。

「それなら僕はソーサラーをやろう。魔法使いは憧れだからね」

 ラムリーザが選んだのは、直接攻撃魔法や間接攻撃魔法を使いこなす、ソーサラーという職業だった。

「じゃああたしは戦士、ファイターね。いや、騎士のほうがいいかな? 戦士とほぼ同じ戦闘力で『ほうりき』が使えるし」

「このゲームに『ほうりき』はありませんの! あ、それと誰か一人はプリーストやったほうがいいですわ」

 回復魔法や補助魔法を使いこなすプリーストは、リリスが遠慮したので、ロザリーンが引き受けることにした。メンバーの緩衝役となっている、ロザリーンらしい選択だ。

「ソニアがファイターなら私もファイター。やったことあるRPGの話だけど、戦士、戦士、僧侶、盗賊、司教、魔法使いとか、戦士の二枚看板がオーソドックスね。それに、ラムリーズも二枚看板だし」

 ソニアに続いて、リリスも戦士を選択した。夏休み前に遊んだマインビルダーズというゲームを思い出させる組み合わせだ。

 一方、ユコとリゲルはこのゲームに詳しいということで、二人で交互にゲームマスター、つまりゲームの進行役をすることになった。

 それぞれゲームマスターをやらないときはプレイヤーとして参加するので、リゲルは盗賊を選び、ユコは吟遊詩人を選んだ。どちらも手先を使う技能を持っているので、鍵開けなどはどちらかがいれば大丈夫だ。

 

 ラムリーザ:ソーサラー

 ソニア:ファイター

 リリス:ファイター

 ロザリーン:プリースト

 ユコ:バード

 リゲル:シーフ

 

 以上の編成で、それぞれのキャラクターの職業が決まり、パーティを組むことになった。

「次はリーダーを決めようよ。この世界だとあたしがリーダーね」

「何を言っているのかしら? あなたがリーダーだと『風船組』ってパーティ名になるけどいいのかしら?」

「吸血組よりは、ずっとまし!」

「あんまり騒ぐな。リーダーは本編に入ってから、物語の流れで決めるということで、話を先に進めよう」

 再び荒れそうになる場を、ラムリーザが抑える。ソニアとリリスの二人は、どうしてこうなった? 打ち解ければ打ち解けるほど、口喧嘩が増える不思議!

「ここからが面白いところだと思うんですの。キャラクターのステータスを決めますので、みんなでお互いを客観的に見て、能力値を数値化してみましょう」

 ユコの提案に、ソニアは質問する。

「チート能力あり? 敵を即死させる異能とか、時間を巻き戻す異能とか」

「そんなものはありませんの!」
 

 
 そういうわけで、キャラクターのステータスを決める話し合いが始まる。

「能力値は4から24まで、平均値は14ですの。数値が高いほど得意、低いほど苦手。今日は『あなたたち本人』で作りますから、遠慮も忖度もなしですわよ」

 決める能力は六つ。筋力、敏捷度、器用度、知力、生命力、精神力だ。

「それではまず筋力から決めましょう。本来はダイスを振って決めるけど、あなたたち自身をゲーム内に再現したいので、みんなを客観的に分析しますわ。じゃあ、筋力の高い順に並べてください」

 筋力――と、みんなの視線がラムリーザに集中する。

「なんね?」

「りんご潰し」

「ゴムマリ破裂」

「レフトールの顔面破壊」

 次々と挙げられる悪名らしきものに、ラムリーザは閉口する。

「ではラムリーザ様が一番ということで、その破壊力から筋力マックス値を贈呈しますわ。人間というより、もはや『設定ミス』の領域ですの」

「……どうぞ」

 ユコのその一言で、ラムリーザは自分の異質さを突きつけられた気がして、なんとも言えない苦笑いを浮かべるしかなかった。

 協議の結果、筋力はラムリーザが最大値の24、次点はリゲルで18に決まった。さらに握力やパンチングマシンの結果から、ロザリーンとユコの二人が16。それほど特徴のないソニアとリリスは、平均値とされる14という結果になった。

「いや、ちょっと待てよ」

 その結果に、ラムリーザは不安を感じて口を挟んだ。

「前衛のファイター二人の筋力が一番低くて大丈夫か? それに僕はソーサラーだぞ? ソーサラーが筋力最大で意味あるのか?」

 確かに、筋力は武器攻撃のダメージにつながるとルールブックに書いてある。

 だが、ラムリーザの懸念にリゲルが「面白い」と言ったので、この結果で進めることになってしまった。

「ラムはね、鬼棍棒みたいな巨大な棍棒を、ソーサラースタッフとして使えばいいのよ」

「ファイアーボールぶち込むより、その棍棒で殴ったほうが強そうね、くすっ」

「いや、そういう冗談を言っている君たちが前衛なのに、一番筋力が低いんだぞ? 少しはやばいと感じようよ」

「あたしはお嬢様だからね。ナイフやフォークより重たいものは持たないの」

 ソニアは身を乗り出して、お嬢様という自分とは正反対の属性を口にした。

「筋肉達磨女より、スラッとした華奢な女のほうが美しいのよ」

 リリスは細い指で黒髪を弄びながら、不敵に微笑んだ。

「そんな戦士があるか!」

「はい、次に行きますわよ。次は敏捷度を決めましょう」

 ラムリーザのツッコミは、ユコによって流されてしまった。

 敏捷度。これは、すばやさや身のこなしなど、身体の動きに影響を与えるステータスだ。

 話し合いの結果、これは走る速さで決めようということになった。体育祭のときに、全員が部活動対抗リレーの選手として参加していたので、そこから走力を測ることができた。

 一番足が速そうだったのは、やはりロザリーンだろう。

「えーと、ロザリーンが敏捷度24かな?」

「うーん、ラムリーザ様の筋力と違って、ロザリーンの走力は最強ってイメージありませんわね。22ぐらいかしら?」

 その次に足が速そうなのは、アンカー同士でデッドヒートを繰り広げたラムリーザとリゲルという話になった。その二人を敏捷度18に設定する。

 続いてリリスが敏捷度16、いまいち速く見えなかったソニアとユコは、平均値の14ということになった。

「待ってよ! あたし胸が邪魔にならなければもっと速いよ!」

 ソニアの言い分にも一理ある。実際、胸が今ほど規格外ではなかった小学生時代などは、走るのも速く、運動が得意だった。

「そのまま異世界転生されるって設定だから、その風船もついてくるのよ。だからあなたは遅いの」

「なっ、なにおぅ?!」

「現時点でステータス総合値が一番低いのはソニアね、くすっ」

「はい、リリスも煽らないで次に行こうね」

 また喧嘩になりそうなので、ラムリーザは口を挟み、さっさと会話を切り上げる。

 次に決めるステータスは器用度。これは、武器攻撃の命中力や、鍵開け、罠の解除に影響する値だ。

「これは、ギターの上手い順かな?」

「ピアノも指先を使いますよ」

「弦と鍵盤、どっちの指の動きが複雑かしら?」

 こうして見ると、楽器演奏をするこのグループには、器用な人が集まっているといえる。そのため、なかなか意見がまとまらない。ギターもピアノもシンセサイザーも、みんな上手なのだ。不器用なラムリーザだけが、蚊帳の外だった。

「まとまりませんわね。では、リーダーのラムリーザ様は、誰が一番上手いと思っていますの?」

「ん、リゲルかな?」

 ぼんやりとやり取りを聞いていたラムリーザは、ユコに話を振られ、いつも思っていることを素直に口にした。

「えーと、それじゃあリゲルさんは器用度24ということにしますわ。次はどうかしら?」

「ん~、みんな一緒にしてあげたいけど、それじゃあゲームにならないよね。だったらピアノのロザリーンと、リードギターのリリスということでいいかな? あ、でもそんなにリゲルと差はないよ。みんな上手いし」

「ならば、リリスとロザリーンは、器用度22ということにしましょう」

「えーとね、ユコもソニアも上手いから22でいいけどね」

「いえ、差をつけましょう。私とソニアは20ということで」

 ものすごく器用な集団だ。そういうわけで、そのしわ寄せはラムリーザが引き受けることになる。不器用で打楽器しかできないラムリーザなのだから、仕方ない。

「ラムは不器用だから、12ぐらいかなぁ」

「平均以下かよ。まあ、いいけどね」

「なんだかラムリーザは、巨大な棍棒を振り回して、クリティカルヒットかミスの二択、って感じね」

「そのまんま鬼棍棒だね。力だけはものすごいけど、攻撃がなかなか当たらない。巨漢キャラのテンプレそのまんまだね」

「いや、僕はソーサラーなんだけどね。器用度はあんまり必要ないよ」

「ソーサラースタッフを振りかざしたけど、不器用だからそのまますっぽ抜けたりしてね、くすっ」

「いや、僕が演奏中にドラムスティック飛ばしたことあるかい?」

「ラムは命中率が低くなるから、ドラムにスティックが当たらなくなるのよ。あとね、ファイアーボールを放っても、全然違う方向に飛んでいくとか。ラムは魔族じゃなくて、小人族なんだよね。あっ、ラムって魔女の男版? それ、使えないよ!」

「いや、意味わからんって」

 普段口喧嘩している二人が、なぜか意気投合してラムリーザをからかってくる。めんどくさいこと、この上ない。

 そんな具合に、わいわいと雑談しながらキャラクター作成を進めていくのだった。

 ラムリーザは、TRPGって意外に面白いかもと思った。

 職業だけは、もう決まっている。まさか自分が憧れていたソーサラーを名乗れるとは思わなかったし、筋力最強の魔法使いなんて、聞いたことがない。

 それでも、笑いながら決めた数字が、机の上で少しずつ「冒険の形」になっていくのは、悪くない気分だった。うるさいし、めんどくさい。だけど、こういうのが楽しいんだろうな、とも思う。

 ただの遊びのはずなのに、数字を決めるたび、妙に本当のことを言い当てられている気がした。ステータスという鏡に映し出されるのは、みんなの心でもある。普段は言葉にしないお互いの評価が、数字となって暴かれていく。そのことへの、微かな恐れと期待。

 次は……知力とか、精神力とか。いよいよキャラクターの中身だ。
 
 
 

 
 
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Posted by 桐代音若