素晴らしき仲間たち
帝国歴77年 紅炉の月・賢者の日――(現暦換算:九月一日)
夏休みは終わったが、エルドラード帝国ではまだまだ夏真っ盛りだ。
ラムリーザ・シャリラン・フォレスターは、新しい土地で領主となるためにこの地にやってきてから、そろそろ半年になろうとしている。
そろそろ馴染んできた頃だろうか――とはいっても、来年からはまた別の場所で暮らすことになるのだから、まだ何とも言えないかもしれない。
現在、エルドラード帝国の最西端は、ここポッターズブラフである。しかし、さらに西へ新開地を開発し、西の隣国ユライカナンとの国交の中継地にしようとする動きが帝国にあった。
そのため、新開地ができ次第、ラムリーザはそちらへ引っ越すことになっていた。
現在ラムリーザが通っている学校は、帝立ソリチュード学院高等学校だ。そして、今日からまた学校が始まる。
昨日までの夏休みは、この春に出会った仲間たちと共に、自動車教習を受けたり人里離れた別荘へキャンプに出かけたりしていた。
新たに作ったバンド「ラムリーズ」もいい感じにまとまり、毎週末にライブを行っている。ラムリーザはそのリーダーでもあり、ドラム担当である。
ライブの衣装として、統一感を出すために学校の制服を着用していた。だから、ステージでも着ていたせいか、久しぶりという感じがあまりしない。
朝になると、ラムリーザは同じようにさっさと着替え、ベッド脇に腰掛けた。目の前では、制服に不満そうな顔をして、もそもそと着替える女の子がいる。
彼女はソニア・ルミナス。バンドではベースギターとボーカル担当だ。
ラムリーザの幼馴染で、この春から恋人に昇格して同じ学校に通うことになった。
もともとソニアは新しい土地についてくる予定はなかったのだが、ラムリーザの「離れたくない」というわがままから、将来の婚約者扱いにして、半ば強引に連れてきたという経緯もあった。
ソニアも離れたくないという気はあったようで、ラムリーザの提案を受け入れ、今では同居する仲になっていて、最近はいろいろと清い交際なのか清くない交際なのか不明だったが……まあ、そのあたりは説明しなくていい。
ソニアの特徴は、青緑色の長い髪と、誰が見ても目を引くほど大きな胸だ。
その大きすぎる胸は、制服のブラウスのボタンが留まらずに、上のボタンを二つほど留められない状態になっていた。
ソニアがもそもそと着替えている理由は、下着がはみ出ないように調整して着る必要があるからだ。使用しているのはハーフカップのブラだ。普通のサイズでは上から半分ほど隠すことができないのであった。
緑色のプリーツミニスカートを身につけ、太ももの半ばまで届く黒い靴下を履いて、ソニアの着替えも完了。
これまでは、やれ胸が収まらないだの、裸足でいることを好むため靴下が長すぎるだの文句を垂れていたが、この夏休み中にラムリーザが機転を利かせて胸はセクシーとか、サイハイソックスは可愛いとか、「ぴちぷにょ」とか謎の言葉を作り出して褒めてあげていたので、最近はあまり不満を言わなくなっていた。
ただし口に出さないだけで、先ほどのように顔には出る。
右腕にエメラルドが数珠つなぎになっているブレスレットをはめて、左手の薬指にエメラルドリングをつけて、ソニアはご満悦だ。リングはこの春ラムリーザが買ってやったもので、ブレスレットは去年、同じように買ってやったものだ。ソニアは、それをずっと大切に身に付けているのだった。
ラムリーザとソニアが現在下宿しているのは、大きな屋敷の一室だ。この屋敷の所有者はラムリーザの親戚で、新開地に新居ができあがるまでの間、お世話になることにしていた。
先ほども述べたが、二人は同じ部屋で生活して、同じベッドで寝ている同居状態だ。
母には清い交際をしていることになっているが、もはや……いや、この話はもういい。
二人は食堂で朝食をとり、屋敷を後にして学校へ向かっていった。
教室にて――
「あっついな、もう」
「うむ、暑いな、それは否定しない」
「夏の間限定で水泳部に入る?」
「一人で行け。天文部は日が沈んでからが主な活動時間だから、俺は別にいい。夜の屋上は涼しいし」
「でも今は暑いだろ?」
「うむ、それは否定しない」
ラムリーザの後ろの席にいて話し相手になっている男子生徒は、銀色の髪と珍しいモノクルが特徴で、少し冷たい印象を受ける男子だ。
名前はリゲル・シュバルツシルト。バンドではリズムギター担当。
珍しいモノクルは、元は普通の眼鏡を半分にしたものだった。去年まで付き合っていた恋人と別れるときに、半分にしてお互いに分け合ったものである。彼が言うには、どこかの作品に元ネタがあるらしいが、それはどうでもいい。
ラムリーザは夏休みのキャンプで、そういった過去を聞く機会を得た。そこでリゲルの昔付き合っていた彼女の話を知ることができたのだった。
リゲルは、この地方の鉄道と運輸を取り仕切るシュバルツシルト鉄道の跡取り息子だ。
そういった地位もあり、庶民の娘――去年まで付き合っていた恋人――と付き合うことを親に反対されただけでなく、その娘の家族を栄転という形で転勤させてまで引き離されるという仕打ちを受けていた。
それ以来、庶民を疎ましく思い、同じように有力者である首長の娘ロザリーンには親しくするが、ソニアたちには冷たく当たっていた。
むろん、ラムリーザとは親しくしている。
「天文部って、屋上使うんだよね?」
「ん、そうだが?」
「ひょっとして屋上の鍵とか持ってたりする?」
「持ってたりするが、どうする気だ?」
お互いに疑問形ばかりの会話をしていたが、ラムリーザはリゲルに頼み込んで屋上の鍵を借り受けることに成功した。屋上に行けば涼しいかもしれない。
「屋上で遊ぶのは、あまり感心できませんよ」
その様子を見ていて口を挟んできたのが、首長の娘、ロザリーン・ハーシェルだ。
濃いめの金髪をポニーテールにしていて、眼鏡をかけている。真面目そうであって事実真面目で、クラス委員も引き受けている。
彼女もラムリーザの新しい仲間で、バンドでの担当はピアノとオカリナ。
ラムリーズ最後の良心――いったい誰が言い出したものだろうか……
ラムリーザは、ロザリーンの注意を気にすることもなく、ソニアを連れて屋上に向かおうとした。すると、さらに二人の女の子がついていくのだった。
「勝手に鍵を渡していいの?」
「ふっ、そこらの先生は俺に強く出られないさ」
ロザリーンの心配も、リゲルにとってはどこ吹く風。リゲルは、権力の利用も悪用も心得ていたのだ。
ラムリーザは、三人の女の子と屋上へ涼みに行った。思ったとおり、屋上は風が心地よくて涼しい。
だが、少々風がきついようで、ソニアたちのミニスカートが危うかった。
ソニア以外にも、二人の女の子がいる。一人は黒い長髪と、赤い瞳が特徴的な美少女だ。
名前はリリス・フロンティア。バンドではリードギターとボーカル担当。ソニアと二人で二枚看板として主役扱いになっている。
ラムリーザは、リリスを妖艶なる黒髪の美女と崇め、その美貌の虜……というわけではない。だがソニアは、嫉妬したりラムリーザを取られるのではないかと不安になって、奇行に走った過去があった。
だがそれは作られた外面であり、内面は最近は美少女とはかけ離れつつあった。
根暗吸血鬼とからかわれ、人の視線におびえるのは過去の話。今ではソニアに同調して、大騒ぎするような楽しい娘になっていた。
もう一人は、プラチナブロンドの長髪と緑色の瞳が特徴的で、神秘的な雰囲気の美少女だ。
名前はユコ・メープルタウン。バンドではシンセサイザー担当。
バンドでの役割はそれだけではない。楽譜作成や、構成メンバーに合わせた曲のアレンジなどができ、欠かすことのできない人材だ。
リリスとは中学時代からの親友で、地味で根暗だったリリスを美少女に仕立て上げたのはユコの力だった。
ユコは、一見まともそうな外見に見えるが、その内面はリリスに負けず劣らず怪しい。ラムリーザ様などと勝手にキャラを作り上げたり、やけに18禁アダルトゲームに詳しかったりで、言動が妙なところがある。
リリスとユコの二人は、家も隣同士で、いつも一緒にいることが多い。
ソニア、リリス、ユコの三人は、屋上の手すりに沿って並んで立ち、遠くを眺めていた。
街のあちこちを指差しては、「あそこが教習所だね」とか、「あたしの住んでる屋敷だ」とか言っている。
その一方で、ラムリーザは三人の少し後ろにあるベンチに腰掛けて、三人を後ろから眺めていた。
三人とも、風でちょっと大変なことになっている。いや、なんでもない。
こうして四人は、屋上でしばらくの間涼んでいた。
「こらっ、ラムズハーレム」
突然後ろから声をかけられて、四人は驚いて振り返った。そこには、リゲルとロザリーンがやってきていた。
「ラムズハーレムと言うたびに、リゲルズハーレムが形成される可能性が1%上がる呪いをかけてやった」
「ふっ、無理だな」
ラムリーザとリゲルの冗談の言い合いに、ロザリーンが割って入ってきた。
「まったく、屋上は遊び場じゃないのよ。それにそこの三人、さっきから……もう、危ないってば……きゃっ」
一瞬だけ強い風が吹いて、ロザリーンのミニスカートまでめくれ上がった。ラムリーザは目のやり場に困り、見なかったことにした。
「まったく、やな風」
ロザリーンはミニスカートの裾を押さえて、ラムリーザが座っているベンチに腰掛けた。さらに足を組んでガードを固めた。

屋上の風は涼しくて、でもどこか熱を含んでいた。
気づけば、六人でいるのが当たり前になっている。当たり前のまま続くことが、いちばん難しいのに。それでも今日は、少なくとも今日だけは、ラムリーザは迷いなくそう思えた。
学校が始まっても、六人は今までどおり仲のいいままだった。いつまでも良い友達でいられますように。
今日は登校初日で、午前中に始業式があるだけで、午後からは自由だ。ラムリーザたちは、久しぶりに部活動を楽しむのであった。