星空セッションと三人娘
紅炉の月・精霊の日――(現暦換算:八月二十二日)
「ほら、泣いてないで一緒に泳ごう。コテージに戻って水着に着替えるよ」
ラムリーザは、リリスとの勝負に負けて泣いているソニアを連れてコテージに戻っていった。
同じ部屋で着替えることは、すでに毎日のことになっていたので、二人はお互いに気にすることもなく、水着に着替え終わった。着替え終わってもソニアはしょんぼりしたまま動こうとしないので、ラムリーザはまた手を引いて湖まで連れて行くことになった。
リリスに負けたことが、相当悔しいらしい。それに、バスト一メートルがバレてしまったこともあるだろう。
ラムリーザとソニアが湖に入っていくのを見て、リリスもコテージに戻っていった。
そういえば、ソニアとこうして水に入って遊ぶのは、プールの授業以外だと、この夏初めてかもしれない。
「あー、胸が楽ー」
ソニアの胸を見てみると、ぷかぷかと湖に浮かんでいる。これではまるで風船みたいだ。
ラムリーザは、その浮いている胸に手を伸ばそうかどうか考えていた。浮いている胸は形がよく、ゆらゆらと揺れて、まるで誘っているように見えた。
しかし、ここは二人きりではない。先ほどリリスたちはコテージに戻っていったようだが、いつ出てくるかわからない。それに、リゲルの位置からもここは見えてしまう。
それでも意を決してラムリーザが手を伸ばしかけたとき、突然背中に誰かが飛び乗ってきて、その手を引っ込めることになってしまった。
「なんぞ?!」
ラムリーザは驚いた一方で、ソニアは怒りの表情を浮かべている。
「こらあ! ちっぱいはラムに引っ付くな!」
つまりリリスも水着に着替えて湖に入ってきて、後ろからラムリーザに抱きついたのだった。どうやらラムリーザがあれこれ考えているうちに、やってきたらしい。
リリスはソニアに凄まれてラムリーザから離れると、そのままうやうやしく礼をしてみせた。
「仰せのままに、一メートル様」
「くっ……」
ソニアがずっと不安に思っていたことが的中した瞬間であった。こうしてソニアは、Jカップ様から1メートル様へ、見事に昇進を果たしたのである。しかしレア度が上がってよかったね、というわけにはいかない。
「だからといって、引っ張られても困るんだけどな」
いつの間にかラムリーザは、右手をソニアに、左手をリリスにつかまれていた。それだけなら特に問題はないのだが、二人がやたらと引っ張るので困る。
「魔女は邪魔するな!」
「貴方にはラムリーザはもったいないわ」
これが何も関係なければラムリーザとしては両手に花のありがたい場面だ。しかし、正式にソニアと付き合っている以上、リリスには毅然とした態度で接する必要がある。
二人の娘は、ラムリーザを間に挟んでにらみ合っている。ありがたいどころか、厄介な場面だ。
「こういう場合、先に手を離したほうが優しい人だという話があったような気がするけどなぁ?」
ラムリーザはふと思い出した昔話を持ってきてみたが、怒っているソニアは手の力を緩めず、リリスは一瞬緩めかけたが、すぐに力を込め直すのであった。
そのうち、怒ったソニアはリリスを追いかけるために泳ぎ出した。リリスも捕まるものかと泳いで逃げ出す。二人ともラムリーザの手は離さないまま。
「こら、ちょっと待て、手を離せ」
ラムリーザの言うことは、二人の耳に届かなかった。二人はラムリーザを軸にして泳ぎ続ける。ラムリーザは抵抗できずに、その場でグルグルと回り続けるハメとなったのであった。
結局ラムリーザは、二人が泳ぎ疲れるまで回り続けるしかなかったのである。
回って回って溶けるまで――もちろん溶けはしなかったが、混乱が収まったころには、足元の砂がえぐれて5cmほど沈み込んでいた。
コマじゃあるまいし、まったく困ったことだ、とラムリーザは大人しくなった二人を見つめていた。こういうのも悪くないな、と思いながら。
こうして、最初とは違った組み合わせになったが、みんなしばらくの間、湖の周りで自由気ままに過ごしていた。
ラムリーザとソニアとリリスは湖の中で遊び、ユコは一人棒くぐりを続けていた。
その棒くぐりは、ソニアだけが体型の関係でクリアできなかった――胸のサイズが普通なら、たぶん通れたはずだ――のだが、リリスとロザリーンはクリアしている。
だが、ユコは何度やってもくぐることができなかった。身体は柔らかいようだが、それを維持する下半身の筋力が足りずに倒れてしまうのだ。
要するに、臨機応変に対処する必要はないが、高度な柔軟性を維持できない、といったところだ。
結局ユコは諦めてコテージへ戻っていった。そして、次に現れたときは水着姿になっていて、ラムリーザたちのほうへ向かってくるのだった。
一方ロザリーンは、いつの間にか桟橋のほうへ向かっていた。リゲルの傍に行き、釣りをしているリゲルを近くで見つめているようだ。時折リゲルは振り返り、一言二言会話を交わしているようだ。
「ラムリーザの奪い合いとなる三つ巴の戦いが、今始まったのよ」
湖の中の人数が四人に増えて、ラムリーザにとってさらに面倒な事態になってしまった。
ソニアは当然「戦いなんか始まってない!」などと言うし、ユコはソニアとリリスが争って両者とも疲弊するのを待っているように見える。
ラムリーザは、こんなことならソニアを慰めた後、すぐにリゲルのところに戻って釣りを再開したほうがよかったと思っても後の祭りだ。今はリゲルとロザリーンが二人きりで、いい感じになっているのかもしれない。
「リゲルとロザリーン、お似合いだと思うけどなぁ」
ラムリーザは、先ほどリゲルから聞いた話を吟味した上で、そう思っていた。ラムリーザとソニアがそうだったように、いつも一緒にいれば、少しずつでも進展していくだろう。
だから、ソニアたちにも同意を求めるようにつぶやいてみたのだが、リリスは「リゲルはリゲル、ラムリーザはラムリーザだわ」などと、ラムリーザの誘導には乗ってこなかった。
仕方がないのでラムリーザは、一人でリゲルとロザリーンについて考えた。とりあえず最初の一投は、次のパーティだな。自分の中でそう締めくくって、自分の取り巻きの方へ目を戻した。
美人二人におっぱいちゃん、三人に囲まれているのは贅沢だ。いや、ラムリーザほどの権力者なら、周りも仕方ないと納得してうるさく言ってくることはないだろう。
でもラムリーザは、リリスやユコにもそれぞれ幸せな家庭を築いてほしいと思っていた。その二人の相手が、どうしても見つからなかったとき、妥協案としてハーレムを築けばいいと考えていた。
リリスあたりは、妥協ではなく最初から愛人狙いなところが見えていたが、この際気にしないことにしておく。
ラムリーザは、今ではソニアだけでなく、リリスやユコにも幸せになってもらいたいと思うようになっていたのだ。
もっとも、ハーレム化したところで、ソニアが喜ぶかどうかは微妙なところだった。
波のない湖面は穏やかなものだ。夜に部屋から見た時、湖面に星空が映っていたように、今度は空の青が映っている。それはまるで、空色の世界に浮かんでいるように感じられた。
ラムリーザは、しばらく仰向けに浮かんで、そのまま目を閉じて自然と一体化してみようと考えた。聞こえてくるのは風の音と水の音、そしてきゃいきゃいと騒ぐ三人の娘たちの声。
だめだ、集中できない。ソニアたちが騒々しすぎる。
ラムリーザは諦めて、空を見上げていた。すると三人に水を掛けられて、全然和めない。
その後もしばらく湖で遊び、晩御飯はリゲルの釣った魚ということになった。
夏休みに入る前の海遊び以来になる、釣ったばかりの魚の串焼きだ。
「足りなかったら夜食を作りますね」
その時はロザリーンの好意に甘えることにして、二度目の焼き魚を一同は十分に堪能できたのであった。
それでも日のある間ずっと釣りをしていたこともあり、焼き魚だけで十分に満腹になったのである。
暗くなってからは、星空の下で演奏会ということになった。コテージのテラスをステージに見立てて、即席ライブ活動が始まった。

このセッションでは、最低でも一人一曲は担当する、という決まりにして、交代で歌った。
最初にギターを構えたのはリゲルだった。湖の向こうまで届きそうな伸びやかなアルペジオに乗せて、静かなバラードを淡々と歌い上げる。星明かりしかないはずなのに、弦の一本一本が光をまとっているように見えた。
続いてリリスが前に出て、いつものライブより少しだけテンポを落とした曲を選ぶ。高い声で張り上げるのではなく、囁くように、でも確かな芯を通して歌うリリスに、ユコもロザリーンも思わず息を呑んで聞き入っていた。
ソニアは明らかに場違いなテンションの曲を持ってきた。星空の下でやるには能天気過ぎるポップソングだが、本人がマラカスを振りながら全力で楽しそうに跳ね回るので、それはそれでおかしくて、サビではみんな手拍子を合わせてしまう。
ユコはここでもエロゲソングを堂々と披露するし、ロザリーンのチーズケーキをもぐもぐ食べようという歌も、料理が好きな彼女らしい選曲だった。
最後にラムリーザが、ドラムセットの脇にマイクスタンドを移動させて歌い始めた。普段はリーダー役ばかりで、歌うことに関してはあまり自信がない。それでも、背中でリゲルがギターを鳴らしてくれていると思うと、不思議と声は震えなかった。
顔を上げると、澄み切った夜空いっぱいに星が散らばっている。湖面にも同じ光の粒が揺れていて、まるで二つの空に囲まれて歌っているようだった。
そして寝るときはいつもどおり、ソニアはラムリーザとリゲルのいる部屋へやってきて、今日は迷わずに入り口から見て左側のベッドに潜り込んできた。
その時に、ラムリーザは今日の出来事で思っていたことをソニアに述べた。
「しかし、ソニア……」
「なあに?」
「ごめんよ、リリスにおっぱいのことばらして」
「……いいよもう。どうせいつまでも隠し通せるわけないし、しょうがないよ。だからラムは――」
「……どうした?」
ソニアは、もう返事をしなかった。一日中はしゃいで疲れ果ててしまったのか、何かを言いかけたようだがそのまま眠りについてしまったようだ。
ソニアの寝息を聞きながら、ラムリーザは今日一日をぼんやりと振り返った。
リゲルが以前付き合っていたというミーシャ・カッシーニ。湖の上で聞いたあの名前は、どこか現実味のない物語の登場人物みたいで、勝手に大人びた女性の姿を思い浮かべてしまった。本当はどんな娘だったのか、リゲルが話したがらないぶんだけ、余計に気になる。
昼間の棒くぐりでは、ソニアはやっぱり派手に負けて泣き、リリスは容赦なく笑って、ユコはこっそり頑張っていた。
星空の下のライブでは、みんな順番にステージに立って、普段とは少し違う顔を見せてくれたと思う。
――こうして思い返してみると、結構いろいろあった一日だった。
でも今、隣ですやすやと眠っているソニアの体温を感じていると、不思議と全部が「よかったこと」にまとまっていく気がする。こうして幸せそうなソニアの寝顔を見ると、やっぱり安心できるというものだ。
リゲルの過去のことも、ロザリーンのこれからのことも、自分にできる範囲でうまく転がしていけたらいい。