デートではなく検証へ、帝都リハーサル
黄金の月・学匠の日――(現暦:6月11日)
ラムリーズ始動に向けて、大きな障害が発生してしまった。
ソニアとリリスの二枚看板体制で行く予定だったのだが、その片割れであるリリスの経験不足が露呈してしまったのだ。
最悪、一枚看板ということにして、ソニア中心にすれば回らないことはない。
だがそうすれば、リリスはプライドを傷つけられ、ギタリストになりたいとか歌手になりたいとかいう夢は壊されてしまうだろう。下手をすれば、気まずくなり、彼女たちの人間関係までぎくしゃくしたものになってしまうかもしれない。
それをなんとか回避しようと考えているラムリーザは、休み時間にリリスに声をかけた。
ちなみに、校内ライブでの演奏は、リリス問題がある程度片付くまで控えておくことにしていた。
「なあリリス、今日学校終わったら、夜遅くなるかもしれないけど僕に付き合ってくれるかな?」
「えっ?」「えっ?」
その発言に、リリスとソニアが同時に驚いた顔をラムリーザに向ける。
リリスの表情はそれ以上変化しなかったが、ソニアのほうはみるみるうちに顔が赤くなり、興奮しだした。
「ちょっとなんでリリスがラムとデートするのよ! リリスはかっこいい男が好きなんでしょ? イケメンの平民とフツメンの貴族がいたら、どっちを選ぶのよ!」
「そうねぇ……」
「迷うのならどこの馬の骨だかわからんイケメンと付き合え! あたしはたとえラムが貴族じゃなくて平民でもラムを選ぶ。たとえラムがフツメンじゃなくてイケメンだとしてもラムを選ぶ」
「あなたも顔で選んでいるじゃないの、くすっ」
「イケメンじゃなくて悪かったな……」
ラムリーザは少し不愉快になって、眉をひそめてソニアを見据えた。それでも不細工と言われなかっただけでもマシか。いや、普通ならそれで謙虚に満足しておくか?
「顔で選ぶのならリゲルのほうがイケメンぽいじゃないの、デートはラムじゃなくてリゲルを誘ったらいいのに!」
ソニアはまだまだまくし立てて、その発言にリゲルは舌打ちする。
「あのね、私じゃなくてラムリーザのほうから誘ってきたのだけど」
リリスは冷めた表情をしてソニアに言うが、彼女は聞いていない。
「ラム! こんなちっぱいじゃなくてあたしと付き合ってよ!」
「ちっぱい? そりゃあJカップ様から見たらねぇ……」
「いいから落ち着けソニア……」
普段は冷静なリリス、そしてすぐに取り乱すソニア。なのにステージに立つと、ソニアは平然と振る舞いリリスは取り乱してしまうのだ。
こんな様子を見てラムリーザは、人間って不思議だな……、としみじみ思うのであった。
「それでリリス、今日は大丈夫?」
「そうねぇ、あなたの前に閉ざす扉はないわ」
「よかった、ありがとう」
この了承を得るためにどれだけ遠回りしたことか。
ソニアが一人暴走しなければスムーズにことが進んだはずなのに、めんどくさかったな……と、ラムリーザは安堵のため息を吐きながら思った。
一方ソニアは、魂の抜けたような顔で「どうしてこうなった、どうしてこうなった……ふえぇ……」とつぶやき、机に突っ伏してしまった。
ラムリーザは、リリスと大事な用事で出かけるだけなのに、なぜソニアがここまで大騒ぎしたり落ち込んだりするのか理解できず、リゲルに聞いてみることにした。
「なあ、なんでこんなめんどくさいことになるんだろうねー」
「お前がリリスをデートに誘うからだろ。まあそのほうが面白いから俺は勧めるけどな」
ラムリーザの問いに、リゲルはニヤリと笑って答える。
「そうか、これじゃデートみたいになっちゃうな……これは迂闊だった」
そういえばソニアはしきりにデートデートと騒いでいたが、ラムリーザは気がつかなかった。
とはいうものの、リリスと出かける必要があるのだ。
ラムリーザは、なんとかデートじゃないふうに装う方便を探したが、これといったものが見つからないまま放課後を迎えることになってしまった。
「さあ行きましょう、どこに連れて行ってくれるのかしら?」
リリスは席を立ち、ラムリーザを待っている。
「そうだなぁ、まずは駅に――」
そう言ってラムリーザが席を立つと、すぐにソニアが抱きついてきて「あたしを捨てないで……」と涙声で訴えてくる。
「うざっ。この感じだとラムリーザ、今日は練習はなさそうだから俺は天文部へ行くからな」
「ああすまん、そうしてくれ」
リゲルはソニアに軽く何か悪態を吐き、ロザリーンを誘って教室から出て行った。
さて、ラムリーザはソニアを不幸にしない方法を改めて考え、これしかないという結論にたどり着いた。
「あー、ソニアも来い」
結局、デートではないと言い張るために、三人で行くことにした。
すなわち、両手に花作戦。傍から見たら優柔不断、二股の悪魔とも見えるがこの際仕方ない。下心がないからそれは可とする。しかしそれを判断するのは傍から見た人たちだ。
とにかくラムリーザは、ソニアとリリスの二人を連れて駅へと向かっていった。
「それでラムリーザ、どこに行くのかしら?」
「シャングリラ・ナイト・フィーバーだ」
「えっ?」「えっ?」
今日のソニアとリリスはよく息が合っている。
シャングリラ・ナイト・フィーバー、それは帝都シャングリラにある規模の大きなナイトクラブだ。
「今から帝都に行くのかしら?」
「そうだよ。ちょっと時間はかかるし泊まりがけになるけど大丈夫かな?」
そこでラムリーザは、リリスに家のほうに連絡するよう促して、きちんと親の了承を得られてから帝都へ出発することにした。ラムリーザとソニアに関しては、帰省と取れるので問題ないだろう。
汽車で帝都に向かい、そのまま客待ちの自動車(タクシー)を利用してナイトクラブに向かっていった。
クラブに三人が到着したときは、まだ準備中で客は入っていなかった。
そしてステージ前に、ジャン――クラブ経営者の息子でラムリーザの友人――が待っていてくれた。
ラムリーザとジャンは軽く挨拶を済ませ、たわいない雑談を始めた。
「ジャン、今日はちょっとわがまま言わせてもらってすまんね」
「いいってこと、俺とお前の仲じゃないか。それよりも、だ!」
ジャンはソニアとリリスのほうを向いて言葉を続ける。なにやら興奮しているようだが?
「これ制服? すごくいいじゃん、ミニスカニーソ! しかもソニア、胸のボタン留まってねーぞ?」
「あーもう、制服イヤ!」
ソニアは胸を腕で隠して叫び、その隣のリリスは、わざわざ靴下を上げ直す仕草を見せる。
なぜそのようにすぐに人を誘惑するような仕草ができるのに、ステージ上ではダメなのかね……、やっぱり人間ってわからない、とラムリーザは考えるのだ。
「いいねいいねぇ」
「いや、だからそんなエロオヤジみたいな反応はよせって……相変わらずだな」
「いやいや、ソニアのおっぱいの大きいのはわかっていたけど、ここまであからさまに見せつけられるとねぇ」
「それはもう、自分以外の女を全てちっぱいと見下すJカップ様だから」
うれしそうに話をするジャンに、くすっと笑って燃料投下するリリス。
「何? Jカップって、ソニア、おま――っ」
「本題に入るぞ」
これ以上今の話題が続くと、またソニアが騒ぎ出す予感がして、ラムリーザは話を進めることにした。
ジャンに、リリスがステージ上で緊張して取り乱してしまうことを話し、場慣れさせるためや経験させてもらうためにステージを貸してほしいという話をした。
「電話で言ってた話だね。リリスさんかぁ……うん、先月祭りの日に一緒に来ていた娘だな。……待てよ、よく見たら俺、こっちのがソニアより好みだわ。どうせソニアはラムリィにしか目を向けないんだしな、カマかけるだけ無駄だ。というわけでリリスさん、今付き合ってる男いる?」
「いや口説くな、ってそれだと軽すぎるぞジャン……」
「ははっ、それじゃ話は後にして、早速やってみようか」
そういうわけで、四人ともステージに上がっていき、その途中でジャンはラムリーザにたずねる。
「えーと、リリスのパートは?」
「リードギターとボーカルだ」
「主役か、そりゃ大変ですなぁ。そもそも気が弱いのなら主役を張らずに、サイドギターやったほうがいいと思うんだけどね」
「いや、気が弱いってわけじゃないんだけどね……」
リリスの気が強いのか弱いのかで分けると、まちがいなく強いほうだろう。ソニアの暴力的な存在感に臆することもなく、むしろやり込めている場合のほうが多いのだ。

というわけでステージ上で一曲演奏してみたところ、問題なく終わらせることができたのである。
スタッフが二人入ってきた瞬間、彼女の肩が一度だけ跳ねたが、音は続いた。だが、視線が増えると拍が揺れる――そういう揺れだ。
「あれ、彼女は普通に歌も演奏もできてるじゃん。しかも普通に上手いし」
「うーん、今ここに僕たちしかいないからねぇ」
ラムリーザは、空っぽの客席を見ながら言った。やっぱり客がいるとダメなのか、と考えるが、リリスの本当の問題を掴みかねていた。
リリスはジャンとは先月の祭りで挨拶したくらいだから、今日もほとんど初対面のようなものである。それにもかかわらず、先ほど誘惑するような行動に出るのだ。
知らない男相手に平然と挑発できるのに、視線が増えると指が固まる。数じゃない、顔触れでもない?
つまり、人見知りってわけではない。
校内ライブのときはできなかったが、今日はステージの上で演奏できた。ステージの規模からいえば、こちらのほうが大きい。
つまり、経験不足からくる緊張ってわけでもなさそうだ。