ネットゲームをやろう その四 ~課金は鐘(かね)が鳴る~
豊灯の月・星々の日――(現暦:5月20日)
ネットゲームを始めて三日目となり、ラムリーザは三人の様子を気にするのをやめた。
彼女たちの目の下の影は、昨夜より濃い。バンドも授業も、ゆっくり壊れていくのを一週間で止める。それが今のラムリーザの全部だ。
とりあえず一週間後に自分が勝ち、止めるよう命じる――それだけを考えることにした。
だが、二日遅れの開始である。普通にやったのでは、彼女たちには勝てないだろう。
そのとき、リゲルが昨日言った「金を出しておけばそれでいいゲーム」という言葉を思い出した。
金か……。
そこで、より効率よくゲームにお金をかけるために、システムをより深く確認することにした。
まず、名将システムというものがある。
このゲームは、主人公と五人の名将がひとつのグループとなって戦う仕組みになっている。
つまり、名将は五人まで選ぶことができ、獲得に必要なのは名声と「将令」というアイテムである。そして、名声を高めることによって、より上位の名将を得ることができるのだ。
現在ラムリーザが所持している名将は、「鮑四娘」というキャラのみである。
名将雇用システムを開いてみると、現在の名声二千では、黄中、珍宮、戯延、賈玖の四人を得ることができるようだ。
しかし勝つためには、より強力な名将を集める必要があるだろう。
そこで他の三人はどうなのだろうと思い、同盟メンバーを開いてみる。
一番名声が多いのはリリスで、六万を超えている。六万名声あれば、一ランク上の辛寧と湯鏡先生を得ることができる。
ということは、現在この辺りを所持していることになるだろう。
「普通にやったのでは追いつけないな……」
名将では三人には追いつけないと思ったが、いろいろと調べてみると名将の中に「砲神名将」というものが存在することに気がついた。
砲神名将とは『砲神演劇』の登場キャラクターで、分類は神仙にあたる。そしてこの砲神名将は、現在獲得できる名将とは比べ物にならないぐらいの能力を持っている。
これらの砲神名将を得るためには、名声は必要ではなく、その代わり特殊将令というものが必要なだけのようだった。さらに調べると、この特殊将令は「四神ガチャ」で入手できる。また、四神ガチャには「オーブ」というアイテムが必要で、そのオーブは「現金」を使ってチャージするという仕組みになっていた。
現金か……、リゲルの言う通り金を出しておけば……か。ラムリーザはチラリと三人を見て思った。
しかし日増しに危険さが増してきているこいつらの暴走を止めるためなら……。
ラムリーザは迷うことなく現金をチャージした。『チャージが完了しました』。無機質な確認音が一つ。部屋の静けさに、現実の硬貨の重みだけが落ちた。
それでオーブを取得し、ひたすら四神ガチャを回した。
チャージとガチャをしばらく繰り返すことで、ラムリーザは、姜親牙、宙の文王、璃靖、燃灯老人、旭己の五人を得ることができた。
これで名将は五人揃った。次はレベル上げだ。
レベルを上げるのに必要な経験値は、主に日々のクエストと迷宮挑戦、モンスター狩りだ。
そして獲得経験値は、クエストが最も多く、次に迷宮挑戦であり、モンスター狩りはまさに地道な作業と言えるようだ。
ただし、クエストは一日にできる回数が十回と決まっていて、十回やるとクエストは終了してしまう。迷宮は、回数制限はないようだが、行動力がなくなると行くことはできなくなる。この行動力というものは、クエストを実行しても減っていくようだ。そして行動力がなくなると、あとは地道なモンスター狩りしかやることがなくなる。
だが、ここでもまた先ほど使用したアイテムである「オーブ」が生きてくる。
オーブを使用することで、クエストの回数を増やしたり、行動力を回復したりできるのだ。
ラムリーザは、出遅れた分を取り戻すために、ここでもオーブを使用してクエストの回数を増やしたり、行動力を回復したりして経験値を稼ぐことにした。回数を増やすごとに、行動力を回復するごとに必要なオーブが増えていっているが、ここは気にしないでおいた。
さらに、四神スロットという機能がある。
ラムリーザが、これは何のためにあるのかということを調べると、装備――武器・上着・ズボン・帽子・手袋・アクセサリーの六か所――に宝石をはめ込むことで、主人公を強化できるということがわかった。そして、その宝石を入手する手段が、その四神スロットというものなのだ。
これはそれほど重要ではないかな……と考えたが、ふと思った。
ひょっとしたら金をかけて入手した、強力な砲神名将に文句をつけて一騎打ちを言い出すかもしれない。特にソニア辺りが……。
というわけで、主人公の強化も行っておくことにした。
強化できる項目は、撃力・体力・守備・命中・回避・CRの六項目のようだ。
それぞれ固有の宝石が対応しているようだ。また、宝石にはレベル設定があって、同じ種類、同じレベルの宝石を三つ合成することで、宝石のレベルを上げることができるのだ。
例えば攻撃力の宝石レベル1では、上昇値が10であるが、三つ揃えてレベル2にすると、一つ当たりの上昇値が30になる、といった具合である。
まずCR(クリティカル発生率)だが、現在ラムリーザのキャラは「3.7%」と表示されている。これをCRの上がる効果を持った宝石を付けることで、クリティカル発生率を高めることができるということだ。そして、この値が100%を超えると常時クリティカル攻撃となり、相手により大きなダメージを与えることができるということになるのだ。
そこで、ラムリーザはまずこの値を伸ばすことを考えた。
それ以外はどうするか……というより、宝石は六か所の装備にそれぞれ三個ずつ付けられる。そして、各装備には、同じ種類の宝石は複数付けられないようだ。
ラムリーザは考える。さて、どう組み合わせるか……。
とりあえず「CR100%」を目指すとして、命中と回避……。そこで、ひょっとして相手の命中を回避で上回ることができれば、攻撃が当たらないのでは? と思いついた。
そこで三人の命中は――と思ったが、同盟一覧からではそこまでの詳細ステータスはわからなかった。だが、フレンド一覧から、それぞれのキャラクターの装備を確認することができた。そこから、それぞれどの宝石を付けているかの確認ができたのだ。
その情報から判断すると、三人の命中は、おおむね「180~200」程度と推定できた。
となると、三人の今後の成長を計算しても、回避は「300」を超える程度あれば万全だと判断した。
ちなみに四神スロットは、ログイン時間に応じてもらえるアイテムや、日々のクエストの一部をこなすことで入手できる「聖獣石」というアイテムを消費して回すようだ。
だがそれ以外の方法で、ここでも「オーブ」を使って回せるようだ。
ということでラムリーザは、宝石を入手するために、オーブを使って四神スロットを回し続けるのであった。
入手しては合成で宝石レベルを上げる――これを繰り返した。
オーブが足りなくなれば、さらに追加で現金を投入する。我ながら何をやってんだか、と思いながらも、三人を現実世界に引き戻すための投資だと割り切って、どんどん進めていった。
そんなこんなで、ゲームでキャラクターを強化するだけで一日が過ぎようとしていた。
三人との会話はない……、ゲーム内メッセンジャーでは話しているようだが。実際、メッセージボックスにはチャットのログがどんどん流れていっている。
ユコなどは、チャットで「パフェ食べたい」と言ってるし……。
だったらゲームなんかやっていないで、普通に食べに行けばいいのに、とか思う。
ラムリーザが、空気が少しこもっている気がして顔を上げると、前の席のユコの肩先に寝不足の色が見えた。恐らく風呂より睡眠より、ゲームを優先したのだろう。
勝負は一週間後と言っていたから、あと三日。あと三日の辛抱だ、とラムリーザは思うのであった。
ゲームの状況は、現金の投入が効いてか、同盟参加時にはレベル差が24ほどあったが、今では10ほどまで縮んでいた。
だが、そろそろ夜寝るときに、いつもなら抱いているソニアの柔らかい身体が恋しくなっているのだった。
その一方で、風呂に入っていないから、近くで抱きしめたら汗臭いだろうな、とか思っていた。
おまけ話。
夜、下宿先の屋敷に帰った後もプレイしていたら、レイド戦というものがあった。ゲームをプレイしている人が大勢集まって、巨大なボスを倒すというものだ。

ゲーム内のチャットでリリスに誘われたものだから、ラムリーザもなんとなく参加してみた。どうやらボスは四国志名将の蝶飛のようだ。
まあよい、強さを調べてみようと思って何気なく参加してみたところ……。
なんとラムリーザは、戦績一位になってしまい、さらにフィニッシュまでかっさらっていってしまった。
「おおっと」
思わず呟いていた。ちょっとやりすぎたかな、とか考えてしまう。
チャットでは、リリスやユコが「おめでと~」とか送信している。
ソニアもチャットで「え~、ラムちょっと強すぎない? これやばくない?」と送信した。ただし同じ部屋、同じテーブル、目の前の席に座っているのに、現実世界では一言も発しない。
試しにラムリーザが「おい、ソニア」と声をかけてみたが、思ったとおりゲーム内のチャットで「なぁに、ラム」と返ってくるのだった。
これはもう重症だ。
ラムリーザは、とにかく一週間後、つまりあと三日後を待つだけにすることにした。
イベントで好成績を残せたということは、順調に育っているということだろう。
ソニアは徹夜でプレイするみたいなので、ラムリーザは今日も一人で大きなベッドに入ったというところで、今日はおしまいだ。
残高の数字は、野草のように黙って減る。
しかし「勝てば命令できる。勝てば戻る」そう唱えれば、胸のどこかが少しだけ軽くなる――ふりをする。
枕元では未読の通知が点いて消え、点いて消え、眠気を刈り取っていく。
ベッドの片側は今日も冷たい。あの熱の代わりに、指先にはガラスの温度だけが残った。
勝った先に本当に「戻る」があるのか、まぶたを閉じても答えは出ないまま、暗闇だけが正直だった。
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