建国祭の朝、やっと戻った日常
豊灯の月・月影の日――(現暦:5月25日)
今日は、帝国建国記念日ということもあり、学校は休みだ。
そして、帝都シャングリラでは「建国祭」が行われている。
そこでラムリーザは、ネットゲーム漬けでちょっと『アレ』な状態になっていたソニア、リリス、ユコを連れて、祭りに行くことにしたのだった。
「また制服で行けって言うの?」
部屋で出かける準備をしているとき、ソニアは先日リリスたちと買い物に行ったときに買った服を手に持って言った。昨日の今日なためか、若干ラムリーザの顔色をうかがうような言動をしている。
「いや、それでいいよ。この間新開地に行ったときもそうだっただろ?」
「よかった」
そう言って、ソニアは緩く波打つ襟元のドレープカットソーを着て、「いつもの」プリーツ入りのミニスカートを履く。
「あ、そういえばミニスカート限定って昨日言ってたね」
「そうだっけか?」
「それと……やっぱり今日は下着をつけちゃダメ?」
「はぁ?」
ソニアは頬を赤らめて、やはりラムリーザの顔色をうかがうようにこちらを見ている。
一方ラムリーザは、一瞬この娘はいったい何を言っているのだ? と思ったが、すぐに昨日冗談で言ったことを思い出した。
昨日はあれだけ呆けていたのに、よくそんなくだらないことを覚えているな、と思って言う。
「あのな、冗談って言っただろ。それとも何か? 僕がつけるなと言ったら本気でそうするのか?」
「うーん……」
「考え込むな、拒絶しろよ!」
思わず力強く突っ込んでしまった。
ただでさえソニアはきわどい丈のミニスカートを履くのだ。これで下着なしと来た日には、痴女もいいところだ。
「アホなこと言ってないで、さあ行くぞ」
というわけで、二人は駅に向かって出発した。
二人が駅に着いたとき、リリスとユコはまだ来ていなかった。
ずっとほとんど寝ないままいたのだから、今日はなかなか起きられないだろうということで、来るのが遅くなるかもしれないというのは想定の範囲内だった。
ソニアも今朝はなかなか起きられず、ラムリーザは起こすのに苦労したのだ。
そこで待ち時間、ラムリーザは暇つぶしに「記念写真の予行演習」と称したソニアの鑑賞会を思いついた。
「祭りで撮るポーズ、今のうちに研究しとこうか。はい、モデルのソニアさん、駅看板を背景に立って『元気ピース』をどうぞ。終わったら次は『屋台見つけた!』の指差しをやってね」
「なぁにそれ? でも、ちょっと面白そう」
ソニアはくるりと回ってスカートの裾を押さえ、にへらと笑う。
「じゃあこれが『ラムを呼んだ』ポーズ!」と片手を上げる。
「いいね、肩を少しだけ落として――うん、雰囲気出た」
二人で笑って、今度は「待ち合わせに遅れた友達を見つけて安心」の演技。
「ふぅ……って胸を張りすぎると痛いから、深呼吸は浅めで」
とラムリーザが茶化すと、ソニアは「はいはい先生」と頬をふくらませる。
ひと通りポーズが揃ったところで、ラムリーザはソニアの前髪を指先で整えた。これで鑑賞会は終わりだ。
「よし合格。続きは本番で撮ろう」
「まだできるけど?」
「無理はしない。ほら――」
そう言って彼はソニアの手をそっと取って、隣に座らせた。
建国祭の日ということもあり、駅には普段見かけない帝国の紋章旗が掲げられていた。
リリスとユコは、待ち合わせ時間を二十分ほど過ぎた頃に、息を切らせて走り込んできた。
ラムリーザの予想通り、起きるのが遅くなって慌てて準備してきたそうだ。
ほとんど尻に届きそうなほどに伸びた長い髪が、まだ乾き切っていない。
「そういえば一緒に現れたけど、家は近いのか?」
「隣同士なの」
「なるほどね」
そこで、ラムリーザは二人の姿を見て、「ん?」となった。

リリスは、上は胸が強調されるオフショルダーのインナーに、黒いベストを羽織っている。
それを見てラムリーザは、リリスも胸大きいんだなと思うのだった。ソニアが規格外なだけなのだ。
そして下が、黒いミニのレザースカートに黒いパンプスという、ソニア並みに脚を強調した姿だった。
ユコは、薄い黄色と白のブラウスに、白い模様の入った緑色のフレアミニスカート。そして太もも丈のボーダーの靴下、いわゆるサイハイソックスにローファー。さしずめ制服の色違いと言ったところか。
二人の衣装は、その対比からまるで親子のようだ。……気のせいだろうか?
さらに二人がミニスカート姿、特に普段大人しめな格好をしているユコが、少しばかり目立つ格好をしているので、ラムリーザは昨日冗談で言ったことが気になってしまった。
そこでとりあえず聞いてみる。
「下着はつけているだろうな?」
二人は聞いた直後はきょとんとしていたが、すぐに昨日のことを思い出したのか、ユコは慌てて言い返す。
「と、当然ですわ! ソニアと一緒にしないでください!」
「ちょっと何それ! あたしも履いてるわよ!」
「じゃあ確認のために見せてくださいまし?」
「はいはい、喧嘩はそこまでね」
ラムリーザは、妙な方向に話を持っていきそうになった二人をなだめて立ち上がった。
一方リリスのほうはというと、微笑みを浮かべているだけだった。いや、さすがにノーパンはないよね。その辺り分別はつくよね!
汽車の中で、四人は昨日までやっていたゲームの話をしていた。
ラムリーザはあまりその話はしたくなかったのだが、三人が聞くのだから仕方がない。
「ラムリーザさんの名将、あれって課金して取る神仙ですよね?」
「ああ、そうだな」
「どのくらいガチャりましたの?」
ユコは恐る恐る聞いてみる。
「えーと、一回のガチャでだいたい二十から三十枚の特殊将令が手に入っていたから、あれは一体二千枚必要だったから、ん~……一体辺り約百回やったことになるな」
「えっと、確かガチャ一回百オーブだったから、一体辺り一万オーブ……」
「それが五体だから五万オーブ……」
「確か現金とのレートは、オーブの五倍が現金よね……」
「つまり合計で、二十五万……」
三人の娘は揃ってため息をつく。実際には、行動力回復のためにも使っていたので、さらに五万ぐらいは使っている。
「はぁ……ゲームじゃなくて、私たちのために使って欲しかったなぁ……」
「ん? 君たちにゲームで勝つために使ったじゃないか」
「そうじゃなくて! おいしいものを食べさせてくれたり、楽しい場所に連れて行ってくれたり、何か買ってくれたり!」
「惜しいことをしたね、残念だったな。ネットゲームにのめり込んでいなければ、その機会もあったかもね」
ラムリーザに軽く笑われて、三人は再びため息をつく。
「ラムリーザが金持ちなのは気がついていたけど、ねぇ……」
「はぁ、馬鹿なことをしましたわ……」
「もう忘れろ。気分一新するために、今日はこうしてお祭りに誘ったんじゃないか。そして明日から音楽も楽しもう、ね?」
「うん、わかったわ」
微妙な空気を漂わせたまま、汽車は帝都に向かって進んでいった。
ラムリーザは三人の姿を見て、とりあえず外見だけはあの残念な状況から回復したな、と感じた。それに、自分でミニスカートを強要しておいて思うのも何だが、ソニアだけでなくリリスもユコも足が奇麗だった。
見た目は美人であり可愛いのだ。それがあんなにやつれてしまうような状況には二度とさせないと、ひとり誓うのであった。
「ところでさぁ、リリスはもし勝ってたらどんな命令するつもりだったの?」
「そうねぇ、まずソニアにはラムリーザと別れてもらう。それでラムリーザには私と付き合ってもらう。ユコには、ん~……」
「なっ……」
リリスの大胆な構想に、ソニアは絶句する。
ラムリーザは、どうやらあの戦いに負けていたら、ものすごくめんどくさいことになっていたんだなと思い、少しばかり戦慄を感じた。
「……ユコは?」
ソニアは恐る恐るユコにも聞いてみる。
「そうねぇ、まずソニアにはラムリーザさんと別れてもらう。それでラムリーザさんは私と付き合ってもらう。リリスには、ん~……」
「ふっ……ふっ……ふっ……」
ソニアがなにやら笑うような感じでつぶやいている。
リリスとユコの衝撃発言で、脳がトリップしたのか? とラムリーザは訝しむ目でソニアをチラリと見る。ソニアはその瞬間爆発した。
「ふざけないでよ! なにどさくさに紛れて堂々と寝取ろうとしているのよ!」
「声がでかい」
ラムリーザがソニアを制する。ここは汽車の中だ。寝取るとか不穏な言葉を大声で言うな、というものだ。
何人かいる他の客はチラチラとこちらを見ているし、どこかで咳払いが聞こえた。
「だいたい何? なんでそんなにラムリーザのどこがいいの? 下着をつけてくるなって命令する変態だよ!」
「だから声がでかいというに!」
ソニアの困った発言にラムリーザも思わず声を張り上げてしまう。しかしリリスとユコは平然としたものだ。
「ラムリーザって金持ちって分かったし、それに見た目もまあまあ良いし」
「(勝手に)未来の自治領主夫人っていうのも魅力的ですわ」
「君たち……」
今度はラムリーザが絶句する。ソニアは多分混乱しているのだろうが、ラムリーザを下げるような発言をするし、自分の見た目を「まあまあ」と言われたのにもひっかかるところがあるし、自治領主夫人って何だ? 自治領主になるんじゃないぞ……と心の中で突っ込む。
そもそもエルドラード帝国内に自治領などは存在しない。
もっとも、リリスやユコと付き合うことは、二人ともすごく美人だというので申し分ないが、そこにラムリーザの意思は存在しないって感じだ。いや、それが命令か……。
しかし付き合うとなったとしても、それはそれで、きついものもある。
「あのなぁ、僕は今ソニアと――」
「代わりに私がラムリーザと屋敷で同棲」
ラムリーザの台詞を遮って、リリスは遠慮なくとんでもないことを言い出す。それこそが、「きついもの」、つまりソニアと同居しているのに他の女と付き合うことに対する解決策になると言えばなるのだが。
「あたしはどうなるのよ!」
「ソニアは学校指定の寮、桃栗の里にでも入ってもらって」
「あのゲームは、そんなに過酷な戦いだったのか……」
今さらながらラムリーザはあきれ――
「当然、命令とあらばノーパンミニスカで出掛けることも辞さないんだからね」
「…………」
――冗談とわかっていても、本気で恐怖を感じたラムリーザであった。
結局のところ、ラムリーザは金貨数十枚で平穏を勝ち取ったということになる。
それはそれで結果よしとしよう、と思い直すのであった。
帝都が近づくにつれ、汽車の窓から見える旗は増え、人の歩調は速く、空は昨日より軽い。