ユートピアだと思っていたら、幼なじみが殺された?!

 
 プロローグ
 
 
 青い空、白い雲、木々のざわめき――目の前にはどこまでも続く大草原。

 ラムリーザは、気がつくとそのような世界にたたずんでいた。

 何もかもが自由すぎる世界――ユートピアとでも言うのだろうか。

 草原を渡る風が、どこかで聴いたベースの音に似ていて、まるで音符のように形を変えて消えた。

「驚くほど理想郷だな……」

 周囲を見渡すと、すぐそばに建物が一つ建っていた。建物は二階までは角ばった形で、その上は円形の塔になっている。まるでつくしんぼのような外観だ。縦に並ぶ窓の数から判断すると、建物と塔を合わせて五階ほどだろうか。

 ラムリーザはその建物に向かおうとして、五人の人物とすれ違った。男性一人、女性四人、しかしそのうちの一人しか、見知った顔はなかった。だがその人たちを見ても、なぜか不安は感じなかった。

 みんな親しげな顔を向けてくれる。その表情を見てラムリーザは、この人たちはたぶん仲間なんだろうと思った。

 仲間の中の唯一の男性は、銀色の髪と世界を映す鏡のような瞳が特徴であり、何があっても動じないようなクールなイメージと、特徴的なモノクルが知的な雰囲気を漂わせる人物だ。

 彼は四人の女性の一人――濃い金髪をポニーテールにしていて、茶色の瞳に眼鏡をかけた、これまた知的な印象の人物――と共に、水辺へ釣りに向かった。

 銀色の髪の男が水辺に立つ。誰だろう――ラムリーザが名前を呼ぼうとした瞬間、風がその声をさらっていった。

 そしてラムリーザの傍に、腰まで伸びたプラチナブロンドが印象的で、言葉にすれば消えてしまいそうな、光のような美少女が近づいてくる。彼女は、「ラムリーザ様」と言って、淡い緑色の瞳でこちらを見上げてくる。その視線には、敬意というものが感じられた。

 残る二人の女性は、剣を片手に大草原へ駆け出していった。

 そのうちの一人は、腰まで伸びた黒髪と赤い瞳が特徴で、いかにも美少女、といった印象だ。妖艶な微笑みに、ラムリーザは思わずドキリとしてしまう。

 そして最後の一人が、背中の半ばまで伸びた青緑色の髪と青い瞳を持った娘だ。ラムリーザが知っていたのは彼女だけだった。彼女は幼なじみで、ソニアという名前だ。

 大草原に駆け出していく二人を見送った後、ラムリーザは建物の中に入っていった。建物の中はがらんどうで、家具類は一つも置かれていない。殺風景な張りぼてのような空間に入り込んだかのようだ。

 ラムリーザは周囲を見渡した。部屋の中央部に、螺旋状の階段が上へと続いている。他に見るものもないので、その階段を上がっていった。

 建物の屋上に到達すると、そこからは遠くまで見渡すことができる。幼なじみのソニアと黒髪の美少女は、草原で牛と羊を狩り続けていた。なぜ家畜を剣で狩り続けているのかまでは、分からない。

 このときラムリーザは、そばにプラチナブロンドの美少女がついてきていることに気がついた。さっきまで遠くにいたはずの彼女が、いつの間にか傍にいた。相変わらず好意的な視線を向けてくるが、いったい誰なんだろう……。

 ラムリーザは幼なじみのソニア以外は誰か分からなかったが、不思議な絆を感じていた。
 
 
 
 
 気がつけば、太陽はもう沈みかけていた。
 

 
 やがてあたりは暗くなり、夜が訪れた。

 風が止まり、草原のざわめきが消えた。世界が息を潜めたその瞬間、暗闇が滲み出した。

 そして、暗闇の中から、なんとも形容しがたい異形の魔物が姿を現した。

 魔物の群れは、大草原で狩りをしていた二人の娘に襲いかかった。そして黒髪の美少女は、その餌食になってしまったのだ。

 ラムリーザが「あっ」と思ったときには、もう遅かった。

 魔物の群れは、幼なじみのソニアにも群がっていく。

「ラム! 助けて!」

 彼女の断末魔の叫びが響いたが、ラムリーザは何もできなかったことを悔やんだ。
 
 
 というか、この展開って何?
 
 
 ラムリーザは混乱していた。なぜいきなり幼なじみが殺されるのだろうか?

 しかし、いつまでも混乱しているわけにはいかなくなった。

 建物の中にも魔物が侵入してきて、気がつけば屋上にいるラムリーザとプラチナブロンドの美少女だけになってしまっていた。

 ここまで来たら、致し方ない。

 ラムリーザは隣で不安がる娘に、「楽しかったよ」と呟いて、自ら魔物の群れに飛びかかっていった。
 
 

 目を閉じたわけでもないのに、世界が静かに消えていった。

 その中で誰かが、自分の名前を呼んでいた気がする。
 
 けれど、目を開けたときにはもう何も残っていなかった。

 

 そして、世界が白くほどけた。

 風も音も遠ざかっていく……
 
 
 
 
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Posted by 桐代音若