TRPG第五弾「悲劇のサーカス団! 指輪に込められた願い」~中編~ 裏テントの住人たち
芽吹の月・白雪の日――(現暦換算:三月十三日)
珍しく饒舌になったリゲルが、サーカス団員レジーナを問い詰めている。レジーナはいまはマーメイド姿だが、先日の舞台では確かに足があった。そこへ、先日ソニアがサーカス入場のチケットを買いに行ったときに、チケット売りをしていたお姉さん、ウルフィニカが現れた。
「『やいやいやい! 人んチに勝手に上がりこんでおいてアタシの妹分いじめるたぁ、何様のつもりだい!?』と凄んできますわ」
ただし、ユコの綺麗な声で凄まれても、ちっとも怖くないのが残念だ。本当は、もっとドスの効いた声で演出したかったのだろうが、そこは仕方がない。
「お前にとって何様とは、ラムリーザ様のことではないのか?」
まだリゲルはやりあうつもりらしい。今日はユコとの舌戦を楽しんでいるのか?
「現実とゲームを混同させないでくださいの!」
とかくゲームと現実を混同しがちなユコの反論は、説得力がない。
「喧嘩はやめなさい」
竜神官ロザリーンの一言で、リゲルは「ふっ」と笑ってこれ以上ユコをからかうのをやめた。
「まったく……。で、ウルフィニカはレジーナに、馬鹿だなぁ~。何で正体明かしちゃうのさぁ! アタシたち、また追われるんだよ? などと騒いでいます」
「とりあえず落ち着かせましょう、ウルフィニカにサニティをかけます」
ロザリーンは、精神属性効果を解除する神聖魔法を使おうとした。人を落ち着かせるのも、この魔法で十分だ。
「了解ですの。かけるなら技能ロールしてね」
「それともう一つ、魔法を使うときは詠唱しなきゃダメ!」
またしてもソニアは、魔法の詠唱を要求してくる。以前ラムリーザに、ファイアーボールの詠唱を要求したこともあった。
「詠唱ですか? ……えーと、竜神よ、この者たちの心の嵐を静めたまえ――。こんな感じでいかがでしょうか?」
「ん~、普通。ラムならどう詠唱する?」
ロザリーンの詠唱が無難だったためか、ソニアは話をラムリーザに振った。
「なんで僕が詠唱を――。そうだな、万物の根源たる森羅万象を司る万能なる竜の神よ、果てしなき暗黒に捕らわれ心の虚空を消し去り、まやかされた汝の身体を汝の意のままに清めたまえ、そして私も清まろう、永遠に――。こんな感じ?」
「なんだかよくわかんないけど、かっこいい」
「結局自分にもかかるのですね」
ユコに突っ込まれながら、ラムリーザとソニアがどうでもいいやりとりをしている横で、ロザリーンはダイスを転がした。
「ウルフィニカは、『まいったなぁ……、こっちも正体ばれると商売上がったりなんだよなぁ』と言いながら、爪を伸ばしたり引っ込めたりしている――って、その目だと沈静化されましたねぇ。『はぁ……、しゃーない。団長の指示を仰ぐか』とおとなしくなりました」
「サーカスが見たいだけなのに、何で怒るのよ」
ソニアは、自分が入り口の扉を破壊して入ったことも忘れて、ぶつくさ文句を言っている。
「じゃあ、開演時間にくればいいじゃん、とすっかりおとなしくなっています」
「一旦サーカステントから出ようか、ここには何もないみたいだし」
そういうわけで、ラムリーザたちは外に出て、ぐるりと周囲をうかがってみることにした。このままサーカステントの中にいても、何の進展もなさそうだ。
「テントの裏に回ってみます、何かありますか?」
ロザリーンの問いに、ユコは「裏手には舞台テントより二回りほど小さなテントがあって、とても静かですわ」と答えた。
「そのテントにも入る」
ソニアが無鉄砲に突撃するが、それも彼女の役割なので任せておく。
「入り口付近は、物置っぽいですの」
「指輪を持ってきたけど誰かいませんか? と声をかけてみます」
「呼び掛けるの? すると虚空から『指輪?』って聞こえました。そんでもって、すぅっと半透明の人間が現れますの」
「半透明?」
「たぶん敵に当たって小さくなって、その間の無敵時間なのよ」
今度はリリスが謎の設定を持ち込んできた。
「そんな設定ありませんの! で、その半透明の人間は、指輪って団長の指輪よね? と尋ねてきました」
「ええそう――」
「団長の指輪かどうかは知らないと答えておけ」
ロザリーンが素直に答えようとしたところを、リゲルが遮って入れ知恵をしてくる。ユコは少しむっとしながらも、話を続けた。
「昨日サーカスを見たから分かるんだけど、その半透明の人はファンティーナ(背の高いピエロ)だと分かりますの。ただし、サーカスのときはちゃんと肉体があったけどね。この辺りの事情を知りたい人は、セージ技能で判定してくださいの」
とりあえず言われるがままに、全員ダイスを転がしてみた。
「今、何もないところから出てきたように見えましたが」
転がしながら尋ねたロザリーンに、ユコは判定の結果を述べながら答える。
「ん~、その目だと誰もわかりませんね。で、ファンティーナは、『これは飛んだところを見せちゃったわね』と苦笑いをして答えましたわ」
「敵に当たったん? それとも魔法?」
ソニアの問いに、「敵は関係ありません。魔法じゃないわ、これが普段の私よ」とユコは答え、「ところで、貴方たち何の用? 確か指輪がどうのって言ってませんでしたか?」と尋ねた。
「団長さんに用事があるのですが、どちらですか? それと、この指輪は団長さんのものですか? と言って、指にはめた指輪を見せます」
ロザリーンは、リゲルが否定的なのを見越して、先に指輪の持ち主を確かめておくことにした。
「ファンティーナは、『あら? そうそう、その指輪よ!』と答えるが、『団長は今はちょっと会えない』とも言いました」
「え? 何で? 昼夜逆転の引き篭もり?」
ソニアは、ちょっと見当違いなことを言った。引き篭もりがサーカス団の団長のはずがない。
「やっぱり団長さんの指輪じゃないですか」
ロザリーンはリゲルの顔を見つめて言った。しかしリゲルは「そうとは限らんぞ……」と言い返すが、少し苦しそうでその先が出てこない。
「ファンティーナは、『ちょっと日中はねぇ……』と困ったように答えました」
「それって吸血鬼じゃんか」
ソニアは、ゲームマスターのユコではなく、リリスのほうを向いて言った。
「乳神様はおだまり、Kカップ様」
どうやら一メートルを超えた胸は、Jカップを突破してKカップと認識されたようだ。
「まあいいです、指輪を置いて帰りましょうか」
ロザリーンの提案に、リゲルは「本人がいないのに置いて帰るのは嫌だな」と答えた。あくまで報酬をせびるつもりらしい。
「ところでさ、この指輪を持っていたのは少年らしいけど、何か心あたりない?」
ラムリーザは、そもそもの発端となった指輪スリ入れ事件についても尋ねてみることにした。
「ファンティーナは、あぁ、あの忌々しいクソガキね? あれは確か遺跡荒らしを稼業にしている盗賊団の一味よ、と答えます」
「盗賊? リゲルの子分か何か?」
「違う、俺のキャラは盗みで食いつないでるわけじゃないから仲間じゃない」
「じゃあリリスの恋人だ!」
ソニアは、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けた。確かにリリスもシーフ技能を持っている。
「その時、ウルフィニカも裏のテントにやってきて、ファンティーナと何やら話をしています。ファ~ン! ちょっとヤバいことに……、とか、ウルフィ……そっちもなの……? と溜息を吐きながらひそひそと話をしはじめましたわ。聞き耳を立てるなら、シーフ技能と知力でロールしてね」
ユコは、リリスが文句を言いだす前に話を進めた。するとリリスは不満顔で、「私はロールしないから、リゲルよろしく」と言った。
相変わらずリリスは、シーフ技能を使いたがらない。従って、残りの四人がロールすることになった。
「人魚……透明人間……半獣半人……このサーカスっていったい……」
ダイスを転がしながら、一風変わったサーカス団のメンバーにラムリーザは考え込む。
「リリスも吸血鬼だからメンバーに加えてもらったらいい」などというソニアの軽口に、「風船おっぱいお化けもメンバーに入る資格はあるわ」と返すリリス。
「あ、そのロールの結果だと、ラムリーザ様とリゲルさんは聞き取ることができますの。『えーとね、どうする? うちらの正体がこんなにばれちゃってさぁ』と言うファンティーナ。『ヤバいよねぇ~、団長は日が沈む前起きてこないし……、うちらだけで判断するのもねぇ~』とウルフィニカ。そして会話は、『一応指輪も持ってるみたいだし』と続いています」
「ラムもりんごを握り潰す特技でサーカスできるし、リゲルもチョコレートを客席に投げるパフォーマンスで人気者になれるよ」
「それってただの力自慢と、敗戦国に駐留する兵士だね」
「チョコレート頂戴」
そう言ってリゲルのほうに伸ばしたソニアの手を、リゲルはぎゅっと握り締め、少し捻る。
「痛いよ!」
「このように力を込めずとも、少し工夫するだけで相手に痛い目を見せることも可能なのだ。お分かり頂けたかな、ラムリーザ君」
「それは、何のキャラだい?」
「さらにこうして極めてやると――」
そう言いながら、リゲルは反対側の腕も使って、掴んだソニアの腕を複雑に組んでいく。その内、彼女の肘関節は、逆のほうへと押し曲げられる。
「痛い! 痛いよう!」
ソニアはリゲルから手を引こうとするが、リゲルはガッチリと組み固めて逃がさない。
「これが関節技だ。力任せに顔面を握り潰さなくても、相手に悲鳴を上げさせることができる」
「な、なんかすごいね」
ラムリーザは、リゲルがそんなに力を入れていないのにソニアが本気で痛がっているのを見て、感心してしまった。
「どうだ? これでも俺はお菓子配りか?」
「違う! 違うから離してーっ!」
「外野うるさいですの! 二人はしばらくひそひそやった後、ウルフィニカのほうが、ちょっと副団長も呼んでくるわ、と奥に引っ込みましたわ」
ユコは話を進めるが、リゲルはソニアいじりに興味が向いてしまい、ほとんど聞いていない。
「このように、技で悲鳴を上げさせるのだ。さ、次は力で悲鳴を上げさせてみろ」
リゲルは、ソニアの腕を極めていたのを放して、その手をラムリーザに渡して次の行動を促した。
ラムリーザは、ソニアの手を掴んだまま、リゲルの誘いに乗るか、何もしないか少し考えた後、「地獄の九所封じ、本物の八番目」と言って、握った手に加減しながら力をこめた。
「ふえぇ……」
「とまぁ冗談は置いておいて、物語の続きはどうなった?」
ラムリーザは、この辺りで勘弁してやろうとソニアを解放してからユコに尋ねる。それから、「もう、なにが出て来ても驚くことはなさそうだ……」と追加しておいた。
「とりあえず、夜まで待ってあげるべきではないかしら?」
ソニアを中心とした茶番劇が終わったのを見て、ロザリーンはラムリーザに物語の進行について聞いた。
「そのほうがいいかな、指輪の持ち主だと思われる団長が、夜にならないと動けないんだしね」

「それでしばらくしてウルフィニカが副団長をつれてくる。派手なとんがり帽をかぶったお姉さんですわ。ちなみに、ソニアは彼女を知っています。先日、座長のもとまで引っ張っていったノクティルカですの」
「副団長が出てきましたか。まあいいや、副団長さんに、『このサーカスは、ちと変わった構成員で、できているみたいですね』と聞いてみます」
ラムリーザは、一風変わったサーカス団のメンバーについて尋ねてみた。
ユコは少し間をあけて、場が静かになったのを確認してから答えた。
「ノクティルカは静かに語った。私以外、みんな俗に言う『魔物』って奴よ――」