TRPG第五弾「悲劇のサーカス団! 指輪に込められた願い」~中編~ 裏テントの住人たち

 
 帝国暦九十三年 芽吹の月・氷狼の日(現代暦:三月中旬)
 
 
 珍しく饒舌になったリゲルが、サーカス団員レジーナを問い詰めている。レジーナは今はマーメイド姿だが、前日の舞台では確かに足があった。そこへ、前日にソニアがサーカスのチケットを買いに行ったときに、チケット売りをしていたお姉さん、ウルフィニカが現れた。

「『やいやいやい! 人ん家に勝手に上がりこんでおいてアタシの妹分いじめるたぁ、何様のつもりだい!?』と凄んできますわ」

 ただし、ユコの綺麗な声で凄まれても、ちっとも怖くないのが残念だ。本当は、もっとドスの利いた声で演じたかったのだろうが、そこは仕方がない。

「お前にとって何様とは、ラムリーザ様のことではないのか?」

 まだリゲルはやり合うつもりらしい。今日はユコとの舌戦を楽しんでいるのか?

「現実とゲームを混同しないでくださいの!」

 とかくゲームと現実を混同しがちなユコの反論には、説得力がない。

「喧嘩はやめなさい」

 竜巫女ロザリーンの一言で、リゲルは「ふっ」と笑ってこれ以上ユコをからかうのはやめにした。

「まったく……。それで、ウルフィニカはレジーナに、『馬鹿だなぁ~。何で正体明かしちゃうのさぁ! アタシたち、また追われるんだよ?』などと騒いでいますの」

「とりあえず落ち着かせましょう、ウルフィニカにサニティをかけます」

 ロザリーンは、精神属性の効果を解除する神聖魔法を使おうとした。人を落ち着かせるのも、この魔法で十分だ。

「了解ですの。かけるなら技能ロールしてね」

「それともう一つ、魔法を使うときは詠唱しなきゃダメ!」

 またしてもソニアは、魔法の詠唱を要求してくる。以前ラムリーザに、ファイアーボールの詠唱を要求したこともあった。

「詠唱ですか? ……えーと、竜神よ、この者たちの心の嵐を静めたまえ――。こんな感じでいかがでしょうか?」

「ん~、普通。ラムならどう詠唱する?」

 ロザリーンの詠唱が無難だったためか、ソニアは話をラムリーザに振った。

「なんで僕が詠唱を――。そうだな、万物の根源たる森羅万象を司る万能なる竜の神よ、果てしなき暗黒に捕らわれ心の虚空を消し去り、まやかされた汝の心を汝の意のままに清めたまえ。そして私も清まろう、永遠に――。こんな感じ?」

「なんだかよくわかんないけど、かっこいい」

「結局自分にもかかるのですのね」

 ユコに突っ込まれながら、ラムリーザとソニアがどうでもいいやり取りをしている。その横で、ロザリーンはダイスを転がした。

「ウルフィニカは、『まいったなぁ……こっちも正体ばれると商売上がったりなんだよなぁ』と言いながら、爪を伸ばしたり引っ込めたりしている――って、その出目だと鎮静化されましたねぇ。『はぁ……しゃーない。団長の指示を仰ぐか』とおとなしくなりましたわ」

「サーカスが見たいだけなのに、何で怒るのよ」

 ソニアは、自分が入り口の扉を破壊して入ったことも忘れて、ぶつくさ文句を言っている。

「『じゃあ、開演時間に来ればいいじゃん』と、すっかりおとなしくなっていますわ」

「一旦サーカステントから出ようか、ここには何もないみたいだし」

 そういうわけで、ラムリーザたちは外に出て、ぐるりと周囲をうかがってみることにした。このままサーカステントの中にいても、何の進展もなさそうだ。

「テントの裏に回ってみます、何かありますか?」

 ロザリーンの問いに、ユコは「裏手には、舞台テントより二回りほど小さなテントがあって、とても静かですわ」と答えた。

「そのテントにも入る」

 ソニアが無鉄砲に突撃するが、それも彼女の役割なので任せておく。

「入り口付近は、物置っぽいですの」

「『指輪を持ってきたけど誰かいませんか?』と声をかけてみます」

「呼びかけるの? すると虚空から『指輪?』って聞こえました。そんでもって、すぅっと半透明の人物が現れますの」

「半透明?」

「たぶん敵に当たって小さくなって、その間の無敵時間なのよ」

 今度はリリスが謎の設定を持ち込んできた。

「そんな設定ありませんの! で、その半透明の人物は、『指輪って団長の指輪よね?』と尋ねてきました」

「ええそう――」

「団長の指輪かどうかは知らないと答えておけ」

 ロザリーンが素直に答えようとしたところで、リゲルが遮って入れ知恵をしてくる。ユコは少しむっとしながらも、話を続けた。

「昨日サーカスを見たから分かるのですが、その半透明の人はファンティーナ、背の高いピエロだと分かりますの。ただし、サーカスの舞台ではちゃんと肉体があったけどね。この辺りの事情を知りたい人は、セージ技能で判定してくださいの」

 とりあえず言われるがままに、全員ダイスを振ってみた。

「今、何もないところから出てきたように見えましたが」

 転がしながら尋ねたロザリーンに、ユコは判定の結果を述べながら答える。

「ん~、その出目だと誰もわかりませんね。で、ファンティーナは、『これはとんだところを見せちゃったわね』と苦笑いして答えましたわ」

「敵に当たったん? それとも魔法?」

 ソニアの問いに、ユコはファンティーナになりきって「敵は関係ありません。魔法じゃないわ、これが普段の私よ」と答え、「ところで、貴方たち何の用? 確か指輪がどうのって言っていませんでしたか?」と尋ねた。

「『団長さんに用事があるのですが、どちらですか? それと、この指輪は団長さんのものですか?』と言って、指にはめた指輪を見せます」

 ロザリーンは、リゲルが否定的なのを見越して、先に指輪の持ち主を確かめておくことにした。

「ファンティーナは、『あら? そうそう、その指輪よ!』と答えますが、『団長は今はちょっと会えない』とも言いますの」

「え? 何で? 昼夜逆転の引きこもり?」

 ソニアは、ちょっと見当違いなことを言った。引きこもりがサーカス団長のはずがない。

「やっぱり団長さんの指輪じゃないですか」

 ロザリーンはリゲルの顔を見つめて言った。しかしリゲルは「そうとは限らんぞ……」と言い返すが、少し苦しそうでその先が出てこない。

「ファンティーナは、『ちょっと日中はねぇ……』と困ったように答えましたわ」

「それって吸血鬼じゃんか」

 ソニアは、ゲームマスターのユコではなく、リリスのほうを向いて言った。

「乳神様はお黙り、Kカップ様」

 どうやら一メートルを超えた胸囲は、Jカップを突破してKカップと認識されたようだ。

「まあいいです。指輪を置いて帰りましょうか」

 ロザリーンの提案に、リゲルは「本人がいないのに置いて帰るのは嫌だな」と答えた。あくまで報酬をせびるつもりらしい。

「ところでさ、この指輪を持っていたのは少年らしいけど、何か心当たりはない?」

 ラムリーザは、そもそもの発端となった指輪をポケットに入れられた事件についても尋ねてみることにした。

「ファンティーナは、『あぁ、あの忌々しいクソガキね? あれは確か遺跡荒らしを稼業にしている盗賊団の一味よ』と答えますわ」

「盗賊? リゲルの子分か何か?」

「違う。俺のキャラは盗みで食いつないでいるわけじゃないから仲間じゃない」

「じゃあリリスの恋人だ!」

 ソニアは、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けた。確かにリリスもシーフ技能を持っている。

「そのとき、ウルフィニカも裏のテントにやってきて、ファンティーナと何やら話をしますの。『ファ~ン! ちょっとヤバいことに……』とか、『ウルフィ……そっちもなの……?』と溜息を吐きながらひそひそと話しはじめましたわ。聞き耳を立てるなら、シーフ技能+知力でロールしてね」

 ユコは、リリスが文句を言い出す前に話を進めた。するとリリスは不満顔で、「私はロールしないから、リゲルよろしく」と言った。

 相変わらずリリスは、シーフ技能を使いたがらない。従って、残りの四人がロールすることになった。

「人魚……透明人間……半獣半人……このサーカスっていったい……」

 ダイスを振りながら、一風変わったサーカス団のメンバーについて、ラムリーザは考え込む。

「リリスも吸血鬼だからメンバーに加えてもらったらいい」などというソニアの軽口に、「風船おっぱいお化けもメンバーに入る資格はあるわ」と返すリリス。

「あ、そのロールの結果だと、ラムリーザ様とリゲルさんは聞き取ることができますの。『えーとね、どうする? うちらの正体がこんなにばれちゃってさぁ』と言うファンティーナ。『ヤバいよねぇ~、団長は日が沈む前には起きてこないし……うちらだけで判断するのもねぇ~』とウルフィニカ。そして会話は、『一応、指輪も持っているみたいだし』と続いていますわ」

「ラムもりんごを握りつぶす特技でサーカスできるし、リゲルもチョコレートを客席に投げるパフォーマンスで人気者になれるよ」

「それってただの力自慢と、敗戦国に駐留する兵士だね」

「チョコレートちょうだい」

 そう言ってリゲルのほうに伸ばしたソニアの手を、リゲルは軽く握りしめ、少しひねる。

「痛いよ!」

「このように力を込めずとも、少し工夫するだけで相手に痛い目を見せることも可能なのだ。お分かりいただけたかな、ラムリーザくん」

「それは、何のキャラだい?」

「さらにこうして極めてやると――」

 そう言いながら、リゲルは反対側の腕も使って、つかんだソニアの腕を複雑に組んでいく。そのうち彼女の肘関節は、逆のほうへ押し曲げられる。力を込めているようには見えないのに、ソニアの肘が逃げ場を失い、悲鳴を上げる。

「痛い! 痛いよう!」

 ソニアはリゲルから手を引こうとするが、リゲルはがっちりと組み固めて逃がさない。

「これが関節技だ。力任せに顔面を握りつぶさなくても、相手に悲鳴を上げさせることができる」

「な、なんだかすごいね」

 ラムリーザは、リゲルがそんなに力を入れていないのにソニアが本気で痛がっているのを見て、感心してしまった。力で押さえつけているのではない。関節の逃げ道を、最初から一つずつ潰しているのだ。

「どうだ? これでも俺はお菓子配りか?」

「違う! 違うから離してーっ!」

「外野うるさいですの! 二人はしばらくひそひそやった後、ウルフィニカのほうが、『ちょっと副団長も呼んでくるわ』と奥に引っ込みましたわ」

 ユコは話を進めるが、リゲルはソニアいじりに興味が向いてしまい、ほとんど聞いていない。もっとも、リゲルの手つきは冷静で、怪我をさせる一線だけは越えていなかった。

「このように、技で悲鳴を上げさせるのだ。さ、次は力で悲鳴を上げさせてみろ」

 リゲルは、極めていたソニアの腕を放し、その手をラムリーザに渡して次の行動を促した。

 ラムリーザは、ソニアの手をつかんだまま、リゲルの誘いに乗るか、何もしないかを少し考えたあと、「地獄の急所封じ、その八」と言って、握った手に加減しながら力を込めた。

「ふえぇ……」

「とまあ冗談はさておき、物語の続きはどうなった?」

 ラムリーザは、このあたりで勘弁してやろうとソニアを解放してからユコに尋ねる。それから、「もう、なにが出てきても驚くことはなさそうだ……」と追加しておいた。

「とりあえず、夜まで待ってあげるべきではないかしら?」

 ソニアを中心とした茶番劇が終わったのを見て、ロザリーンはラムリーザに物語の進行について聞いた。

「そのほうがいいかな、指輪の持ち主だと思われる団長が、夜にならないと動けないんだしね」
 

 
「それでしばらくしてウルフィニカが副団長を連れてきました。派手なとんがり帽をかぶったお姉さんですわ。ちなみに、ソニアは彼女を知っています。前日、座長のもとまで引っ張っていったノクティルカですの」

「副団長が出てきましたか。まあいいや、副団長さんに、『このサーカスは、ちと変わった構成員でできているみたいですね』と聞いてみます」

 ラムリーザは、一風変わったサーカス団のメンバーについて尋ねてみた。

 ユコは少し間をあけて、場が静かになったのを確認してから答えた。

 ノクティルカは静かに語った。「私以外、みんな俗に言う『魔物』ってやつよ――」

 その言葉に、夕方の空気が一瞬だけ冷え込んだ気がした。
 
 
 

 
 
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Posted by 桐代音若